第十三幕:宴会の後
やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。
なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。
第十二幕では、ハンウェル精神病院で火事が起きた。僕とワトソンは逃げ出す事もできなかった。
最期の機会という事で、二人でささやかな宴会を始めた。
久しぶりの酒により、僕らはあっという間に眠った。
「ーー信じられん!一体どうやってーーいや、そんな事よりも、けしからんーー禁止されていた!酒だと??」
怒鳴り声で、僕は目が覚めた。
ドクター・ハントリーが病室で喚いていた。看護師が一人しかいなかった。
「貴様ら!何をしたか、分かっているのか!貴様らが火をつけたんだーーどうやって? 言え、言わんか!」
ドクターは、ワトソンの首を締めあげて、頭をガクガクと揺さぶっていた。ワトソンのヒゲがフルフル揺さぶられてた。
「騒がしいーードクター。僕らは神の前かい? 全員仲良く焼けて灰になったのかね。」と僕は彼に聞いた。
「神の前だとも!貴様らの神は私だ!このろくでなし!人でなし!」とドクターは、
「おい!言い返さないと思って調子に乗るなよーー僕らは無事だったのか」
「今のところはな!だが、すぐにその首にふさわしい紐が用意されるだろうよ!仲良く吊されるがいい!」とドクターは聞くに耐えない罵倒を繰り返すんだ。
ハントリーは、病院という小さな王国の王だった。
火事でその城が揺らぎ、僕らはその怒りの逃げ場になっていた。
「そこまでにしないか。吾輩が後は引き継ぐ。ドクターは、何か盗まれたものがないか調べてくれーー」と聞き覚えのある声がした。
ドクターは、僕とワトソンを睨みつけた後、部屋から出た。
イイザマだ。こんな怒らせ方もいいな。
ーー頭がガンガンと響いたが、周りを見回した。ここは病室だ。僕とワトソンの部屋だ。
そして、声の主に僕は目を向けた。
「やあ、トビー。いや、グレグソン警部補の方がいいかい?」と僕は彼に前に言われた事を言ってやった。
「お前は相変わらずだな、ホームズ。
いかれてやがる。」とグレグソン警部補は吐き捨てた。
「彼は誰だい? ボクらと同じ?」とワトソン。
「患者と吾輩を一緒にするな!」
その怒鳴り声には、患者と自分の境界が揺らいでいく恐怖が混じっていた。
「どなるなよ。ーー僕らのせいじゃない。君の名前を恨むんだ。
誰だって君を僕らと同じに見るぜ。
トーストとコーヒーを賭けてもいい」
僕は楽しく彼をからかった。
「吾輩をバカにするたびに、お前らの立場は悪くなるぞーー」と彼は僕らを脅してきた。
「ドクター・ハントリーは、お前らがケムリのように部屋をでて、
酒をかっぱらい、ケムリのように戻ってきたと思っている。ずいぶんと、まあーーありえなくもない。
ホームズとワトソンかーー」と彼は苦笑した。
「買い被りすぎだよ。警部補。ケムリのようにでられたら、もう戻らない。」
「そうだろうな。だがーー不気味な事件だ。事故かもしれないがーー」
僕は不安な気持ちになった。
「警部補。誰か死んだのかーー?」
警部補は僕を眺めた。そして、目を細めた。
「もう知ったものかと思ってたがーー、まあいい。」
警部補は、ため息をついた。
「看護師が一人死んだよ。」
その一言のあと、病室の空気は、火事の煙より重く沈んだ。
「ハンウェル精神病院の酒部屋で焼けたよ。この辺りが火の海にならなかったのは奇跡だ。」
ワトソンが生娘のような悲鳴をあげた。可哀想に彼の希望は打ち砕かれたんだ。
「死んだのは、ダグラス・ハーヴェイだね。警部補ーー」
僕の言葉を聞いた時、警部補は目を見開いた。
「まさかーーお前ーー」
警部補のーーその言葉だけで、僕は背筋がゾクっとした。
「彼は殺されたーー人喰い人種の呪いだ……」
警部補は、失望の眼差しを僕に向けたのだったーー。
僕の声は自分でも分かるほど震えていた。
その震えは、警部補の失望よりもずっと冷たかった。
(こうして、第十三幕は元船乗りの死で幕を閉じる。)




