第十一幕:過去の告白
やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。
なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。
第十幕では、アル中のワトソンの前で取り乱してしまった。
一人の時には、僕が泣いたり、
吃ったり、狼狽えても、誰も相手にしてくれなかった。
だけど彼だけは、たとえ酒の為だとしても、僕を見捨てないでいてくれた。
僕は彼を相棒と思うべきなのだろうか。それとも、ただのアル中として扱うべきなのか悩む。これからも。
僕らは、自分たちの病室の中にいた。
一つの寝台に押し倒されていた。
まったく、ふざけた状況だ。
「どきたまえ、ワトソンくん。
僕らしくもなかったーーいや、ホームズらしくないといのが、正しい。」
彼を払いのけた。
そのまま、ワトソンは彼のベッドに腰かけた。ぎしっと音がした。
彼はまだ僕を心配しているようだった。
「ーーワトソン。僕には過去がある。
シャーロック・ホームズなんかではない過去だ。
ーー君には聴いてほしい。
うまく話せるか、正直わからないんだーー」
「今、君が話せる範囲で構わないよ。
アレを呑むのも、ガマンする。
自信ないけどねーー」とワトソンは微笑んだ。
「ありがとう。
ーーさて、僕は1900年頃に強姦の疑いをかけられた。
ーー実際、女を抱いていたし、
ーーあの女から誘ってきたんだ。
遊びのつもりだと思った。
相手もそうだとーー思った。
ーー次の日の朝には、女はいなかった。それでお終いと思ってた。
僕にはプロポーズまでした彼女もいたし、幸せだった。
神さまに祝福されてると感じてた。
そしたら、彼女にバレた。
あの女がーー被害者って言い張ったせいでさ。」
「ホームズ、口を出すようで、すまないがーー」
彼は、悲しげに僕を見つめた。
「人との触れ合いは、遊びですまされない。悪いのは君だ。」
「ーーわからなかった。頭の中がお花畑だったからさ。
どうしようない男だ。
彼女にも言われたーー遊びですまされない、と。」
「いい彼女さんだったんだねーー」
「まったくだ......」
「それでーー君はどうしたの?」
「ロンドンから逃げたーー」
僕の言葉に、ワトソンは信じられないモノを見るように、僕を凝視した。
「なんで逃げたんだ。君の立場を悪くするだけだーー」
「周りの目が、もう僕をマトモに見てくれなかったからだ!」
しばらく僕たちは黙っていた。
「外の世界を三年間ぐらいさまよっていたよ。
なんの実にもならなかったーー
逃げたのは間違いだったーー」
「だろうね。でも、普通は逃げない。
何か言われない限りはね」
「その通りだ。僕はある友人に言われた。囁くように、
道を教えるようにーー、その囁きは、喉からではなく、背中から聞こえた気がした。
“しばらく身を隠したまえ”ーーと。」
「ろくでもないヤツだ!
卑劣な男だぞ!
ホームズ、なぜ信じたんだー!」
「その時の彼は、ウェルギリウスのような気がした。僕はダンテだーー彼のいう通りだとーー思ったーー」
僕はーー絞り出すように言葉を続けた。
「三年後、僕は騙された事に気づいた。僕の信頼は、場所はズダズダに引き裂かれ、彼女は友の妻となった。
彼との子を連れて、
彼女は僕に見せつけた。
僕は、本当に騙されたのだーー
あの蜘蛛にーー
親友とさえ呼んだ男にーー」
部屋の中で、”親友”という言葉だけが虚しく響いた。
(こうして、第十一幕は変えられない過去により幕を閉じる。)




