素晴らしきフレーバー
「……おお、今日の夕飯はカレーライスか! 炒めたクミンシードの香り、『ザ・カレー』ってにおいが食欲をそそるねえ!」
「そんでもってデザートはイチゴジャムを添えたパンケーキ! 甘酸っぱいイチゴの香りとバターのにおい、もうたまらん!」
「食後のアールグレイの高貴な香り……フレーバーだけでおなかいっぱいになりそうだ!」
「――ってあぁあああもう!! やってられるかこんな『宇宙探索』!! 『チューブ状の宇宙食』と『栄養サプリを混ぜ込んだ水』にはうんざりだ!! チョコレートソースをたっぷりかけたバニラアイスクリームが食べたぁああああいい!!」
「ったく、まぁたジャックが始まった! しょうがないだろ、俺らはそれを納得して宇宙飛行士になったんだろが?」
「それにしたって生殺しもいいとこだ! 美味しさを追求していた『宇宙食』は今や経費削減でチューブに入ったペースト一種類! 『せめて食事時に機内にただよわせるにおいでお楽しみください』だぜ!? これが一年も続いたら、さすがにおかしくなっちまう!!」
「まあまあ、もう俺らは帰りの旅路のとちゅうなんだ。何の成果もあげられなかった宇宙探査を終えて、今は冥王星付近……あと半年もすりゃあ、愛しの地球に帰れるさ!」
「半年かあ……まるで永遠だ!! あああ!! シナモンを漬け込んだブランデーをちょっぴり垂らしたイタリアンローストコーヒーが飲みたぁあああいい!!」
「俺の母ちゃんが作ってくれた焼きたてのアップルパイが食いぇええええ!!」
「ほとんど脂しかないだろって感じのベーコンをかりかりに焼いて挟んだベーコンレタストマトバーガーにかぶりつきてぇえええ!!」
ぎゃーぎゃー叫ぶ宇宙飛行士たちを乗せて、宇宙探査機は冥王星付近を飛行している。
探査機の食堂内には相変わらずカレーライスのクミンの香りと、イチゴジャムをのせた焼きたてのパンケーキの香り、高貴なアールグレイの香りが充満していて、地球はあまりにも遠かった。
(完)