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第四話 並べクリス

 クリスは歩いていた。走らなくてもいい状況を創り出すために、歩いていた。

 ファンシーなお店でツインテがゆるふわと化してから、彼女と共に歩いている。目的地は駅の中。案外すぐに到着した。


「ここは?」


「カフェだよー。さ、中に入ろうよ」


「ちょっと待ってくれ。ゆっくり店内で召し上がるとか言わないよな?」


「え、店内で召し上がらないの?」


 クリスは急いでいる。だから、カフェでまったりする時間などは無いのだ。


「俺は急いでいるんだ。君とのお茶会を楽しむ時間はないんだ」


「んー、しょうがない。じゃあテイクアウトでいいよ。でもすぐには離さないから」


 二人はカウンターでドリンクを注文した。提供されるまでの時間がクリスの想像していたよりかは短く、彼は安堵した。

 すぐにでもそのドリンクを飲み干し、お礼とやらを受け取って駅のホームへと向かおうと思っている彼だったが、それは勘づかれ、ツインテに止められた。更に、とんでもないことを言われる。


「今のは目的地じゃないから」


「え、嘘だー」


「ほんとだよー、目的地はこっち」


 そう言ってツインテに連れていかれたのは、とあるケーキショップ。甘いものを飲んだうえで、甘いものを食べる。なかなかやるな、とクリスは思う。彼もまた、大の甘党なのだ。

 しかし、問題があった。


「オイオイ…………人が滅茶苦茶並んでるじゃないか」


「もう、三十分もすれば買えるって。そんなに急がなきゃ駄目なの?」


 クリスはゆるふわツインテに対し、何故急いでいるのか伝えてはいなかった。それは、偏に彼の自尊心の問題だった。例え、見知らぬ人に対してであっても、この失敗を公にしたくない。その思いが、彼に真実を語らせなかった。

 真実を伝えられない彼は、その場ででっち上げた理由を話す。


「そう、どうしても急がなきゃいけない。か、彼女が、地元で、あー、会う約束をしていて。で、そのー、約束の時間が迫ってるんだ」


 このように話すクリスに彼女はいない。所々言葉を詰まらせる様子からも分かるように、完全な作り話なのだ。残念なことに。生まれてこのかたずーっとだ。彼の面とスタイルがあれば、彼女の一人や二人…………二人もいたらまずいが…………いてもおかしくはない。しかし、彼はこの上なく女性と関わるのが苦手だった。いつも些細なことで赤面し、あわあわするのだ。

 しかし、そんな彼のことを出会ったばかりのゆるふわツインテが見透かせるはずもなく、彼女は大きく目を見開いた。そして、耳を真っ赤に染めながら、俯く。


「そっか…………彼女いるんだ…………そうだよね。普通に考えてそうだよ。こんなにお顔がいいんだもん…………人の彼氏取ろうとするなんて、私最低だ」


 小さな声で言った言葉だったが、クリスの耳には届いていた。そして、改めて突き付けられる、外側はある程度整っているのに一度も彼女がいたことがないという事実。それに加え、彼女を騙してしまったという罪悪感。

 彼自身、彼女がどうしても欲しいというわけではなかった。しかし、周囲の人間に焦らされると「俺は何故モテないんだ」と頭を抱えることも時々あった。

 だが、今目の前にいるツインテは少なからずクリスに好意を抱いていることに彼は気づかない。見た目から入ったとはいえ、内面を見せるチャンスのはずなのだ。

 だが、彼には友の方が圧倒的に大事だった。

 だからここで、彼は彼女と深く関わろうとはしなかった。但し、罪悪感の埋め合わせはしておきたいと感じた。


「あのー、えっと…………三十分くらいなら並びます」


「え? いいの?」


「ちゃんとお礼は支払ってもらいたいので…………」


 理由は何にせよ、これで彼の中の罪悪感は埋め合わせられたらしい。大人しく列に並ぶクリスに対し、ツインテの心は少し晴れやかになっていた。

 ツインテは横に並ぶと彼の顔を見て言った。


「私、こんな感じで、ゆるふわツインテだからあんまり良い感じの男は寄ってこないの」


「…………そうなんだ」


「だから、彼氏も全然いなくて。でも、走っている君の姿を見たら、どうしても声をかけないと後悔すると思ったから強引に連れてきちゃった。でね、このお店、毎月二回、カップルや友人と一緒に来ると購入できる限定メニューを販売するんだけど、いつも素通りするしかなくて」


「それで俺に? 友人と来たらいいのでは?」


「そう思うでしょ? でも、ゆるふわツインテのときの私とは一緒に歩いてくれないんだ。みんな良い人たちなんだけどね」


 クリスは思った。彼女にも悩みはあり、それを今自身に伝えてくれているのだと。しかし、彼は本当の理由を述べていない。これは言いにくいことを語ってくれた彼女に対して、失礼なのでは? とも思ったが、彼女の話の内容が内容なので、今更「彼女なんているか! 友人解放のために帰らなきゃならんのだ!」などとは、彼には言い出せなかった。

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