春のゆくえ
あんなに鮮やかに咲いたお前。
どこへ行ったのだ。
嵐のような風で飛んでいったのか。
地に埋もれて隠れたか。
あの地に落ちたお前はどこへ行く。
川に流れて筏を作ったか。
海に流れて遠い国へ行ったのか。
私には見当つかぬ。
あのお前はどこへ行き。
どこかで色鮮やかに。
淡い桃の色を風に漂わせ。
どこかで綺麗に地を舞っているのか。
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私が覚えているかぎり。
お前はただの花弁ではない。
私が桜を見て、桜の下から散ったから。
お前はただの花弁ではないことに気付いた。
私が桜の木を覚えていて。
桜の下に花弁が落ちているかぎり。
お前はただの花弁ではない。
桜の花弁なのだ。
お前が初めて桜の下から去り。
消えることでお前をただの花弁だと思おう。
過去の思い出となろう。
そしてお前が地から風に舞って。
花弁一つも残さず、消える時分。
私は当たり前を知るだろう。
桜と同じように。
夏の暑さ、蝉、花火。
秋の紅葉、鈴虫。
冬の雪、寒さ。
それらと同じ。
私が忘れることがあれば。
当たり前だと思う。
思い出して有り難みを知れば。
当たり前を知ることができるだろう。
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そうやって春は、又一つ去ってゆき。
こうして歳を重ねるのであろう。
歳を重ねることに恐怖を感じていたが。
こう思うと歳の数字が増えることに。
有り難みを知ることを知れるだろう。
私は生を享受するのだ。