愚者と賢者
俺のクラスには"賢者"がいる
そいつはなんでも卒なくこなす
そいつが出来ないことなんて何もないんだろう
そんなあいつが俺は嫌いだ。
元々あいつは"愚者"で俺が"賢者"だった、
あいつは最初この学校に転校して来た時内気な性格で何も話せない、言わばインキャだった、最初の自己紹介の時も
「あっ…えっと…私は…旋…」
って何も言えてなくてクラスの奴らみんなで笑ってたんだ。テストも学年最下位であいつは何も出来ない落ちこぼれ、「お前は愚者なんだよ!」って言ってクラスで虐めていた、それにクラスの奴らは共感したのか誰も庇おうとせずに続けていた。なのに急にあいつは変わった、愚者から賢者に変わったんだ。
テストも学年1位、運動もできるようになって大会でも成績を上げて表彰までされていた。
それとは打って変わって俺は何も出来なくなった。俺はあいつに目を奪われていたんだ。勉強も、自主練も、普段から出来ていたのにあいつに目を奪われてからは何も出来なくなった。そんな俺がここまで落ちぶれるのは必然なのだろう。
今までの生活とは変わって俺は何も出来なくなった、勉強をしなくなって問題が解けなくなった。自主練をしなくなって体が鈍ったのか思うように動けない。俺はどうなったんだ、どうしたら"賢者"に戻れる?
「旋ちゃんってどうして急になんでもできるようになったの?」
クラスの女子があいつに聞いていた、俺も気になって聞き耳を立てた、
「別に変なことはしてないよ〜自分と向き合って、今何をしたらいいのか考えてそれをしただけ。簡単でしょ?」
「じゃあ好きな人とかいるの?」
「好きな人かぁ…好きって訳ではないけど今の漣くんは結構好きかも
…は?何を言ってる?自分と向き合うだけ?俺はもうそれをした、しても変わらなかったんだ。なのにあいつは変われた?俺とあいつは何が違う?
俺にはもう何か出来る可能性はないのか?あいつのように"賢者"に戻れる可能性はないのか?ならもう頑張る意味なんてないよな…
放課後、俺は1人屋上に足を進めた、理由は単純明快"愚者"を終わらせるためだ。
"愚者"の俺が消えれば残るのは"賢者"だった俺だけ、よく言うだろ?思い出は美化されると、もう俺が賢者に戻るにはこれしかないんだ。
こうして俺は屋上から降りようとした、しかしどうにもあいつの言葉が気になる。
「自分と向き合う?何を言っている、それにあいつは今の俺の方が好きと言っていた、昔の俺ではなく今の俺に?どう言う事だ?…考えても賢者様の考えることは愚者の俺にはわかんねぇわ…
「…んぁ…ここは…」
「私の家だよ、漣くんが倒れていたからとりあえず家に連れて来たの」
…?倒れていた、俺は俺を終わらせようと飛び降りたはずだ。
「…因みにどこで倒れていたんだ?」
「どこでって、確か屋上かな」
「嘘を言うな!!俺はあの時確かに飛び降りた!倒れていたとしても屋上はありえない!」
「あ、やっぱり飛び降りようとしたんだ、危ないよ〜人生終わっちゃうんだよ?もっと長生きしないと」
「っち…人生なんてどうでもいいんだよ…ってか今お前やっぱりっていったか?はっ、やっぱり賢者様にはなんでもお見通しってか?」
「お見通しなんかじゃないよ、ただ君と私が似ているからもしかしてって思っただけ」
似ている?賢者と愚者が?
「馬鹿な事言うなよ?似ている?俺とお前が?真反対だろ、愚者と賢者、1位と最下位、非凡と凡夫…何が似ているって言うんだよ、」
「…私が転校して来たの覚えてる?」
「あぁ、覚えている、最初は何も出来なくて今の俺みたいなやつだったと覚えてるよ」
「私ね、前の学校では前の君みたいに最初から賢者だったの、だけどある日別の人に一位取られちゃったの。私は悔しくてその人に勝とうと色々したんだけど何も出来なくて…ちょうど親が転勤するって聞いて私もついて来て今の学校に来たの、でその時自分と向き合ってみたら私気づいたの」
「気づいた?」
「私その人に目を奪われていたって」
それは奇しくも俺と同じ表現の仕方だった。
「でね、私はその人を忘れる事で自分の目を取り返した、だけど完全には取り返しきれなかった、だから足りない分は自分で手に入れたの、」
「俺も目をお前から取り返せるかな…?」
「取り返せるよ、取り返すには自分で努力しないと行けないけれどその可能性は君が持っているじゃないか。
…ねぇ、知ってる?愚者ってタロットでは無限の可能性と冒険心を象徴するカードって言われているの、無限の可能性、いい言葉じゃない?だから昔より今の君、今の私より昔の私より昔の私の方が好きなんだよ。」
「無限の可能性か…お前の言うとうり俺も頑張ってみようかな。」
「君なら頑張れるよ、因みにお前じゃなくて私の名前は旋、東崎旋!君の目を持っている人間の名前!」
「じゃあ俺も、俺は漣蓮、お前に目を奪われた人間だ」
「ふふ、私から目を奪い返せるかな?」
「大丈夫だ、絶対に旋から目を奪い返してやるよ」
何故なら俺は"無限の可能性"を持っているんだからな
え〜初めまして!人と申します、楽しんで頂ければ幸いです!