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虚構の海でラーメンを

作者: あじのこ

短編練習

ネットの海は今日もざわめいていた。

無責任に放牧されていくミスインフォメーション。野放しにされたデマ。無数のデータが流れ、絡み合い、時に衝突しては消えていく。


かつては人間の手のみで構築されていたその海も、今では生成AIが生み出した無数の情報の渦に飲み込まれ、誰にも全貌が掴めない混沌の世界と化していた。


「また増えてんな……」


ヘッドセット越しに聞こえるノイズ混じりの声が、耳元で低く響く。掃除屋の一員であるシリルは、視界に広がるデジタルの霧を睨みつけた。

彼の目の前には、黒いノイズの塊が漂っている。それは、かつて暴走AIが残した「汚染」の一部だった。触れるものすべてを侵食し、正常なデータを破壊していく厄介な代物だ。


「シリル、進入ルートを確保した。今なら行ける。」


通信の向こうで声をかけてきたのは相棒のグリッチャ。彼女は天才的なハッカーで、ネット空間の構造を自在に読み解くことができる。


「了解。グリッチャ。今日は絶好調だな!これでもう三つ目だ。」


シリルは短く答えると、手元の端末にある「浄化プログラム」を起動した。画面上に現れた緑色のラインが、ノイズの塊を包み込むように伸びていく。


「はー早く仕事終わらせてラーメンでも食いに行こうぜ」

「それってリアルのこと?それともVR内のこと?」

「オレはリアルでもいいぜ!外に出てこない天才ハッカー様と飯を食えるなんて光栄だ!」

「……考えておくわ。ほら、よそ見しないで」


グリッチャの声にハッとし、シリルは視線を端末に戻した。緑色のラインがノイズを徐々に覆い尽くしていくが、その動きは鈍い。黒い霧はまるで意志を持つかのように抵抗し、時折鋭いデータの棘を放ってきた。


「これ、いつもより手強くないか?」


シリルは眉をひそめ、端末の操作を素早く切り替える。浄化プログラムの負荷が限界に近づいている警告が赤く点滅していた。


「シリル。今回の汚染、ただのノイズじゃない。何かが混ざってる。」

「はぁ!?なにかってなんだよ?」

「これは……」


グリッチャの声には緊張が滲んでいた。彼女の端末には、ノイズ内部に隠された膨大なデータの断片が次々と浮かび上がっている。それらは通常の汚染とは異なり、奇妙に規則的なパターンを持っていた。


「おい、グリッチャ。これ、ただの掃除じゃ済まないんじゃないのか?本部に連絡して応援を呼ぼうぜ」

「応援なんて呼んでいたらあっという間に広がるわよ」

「じゃ、どーすんだよ」


シリルが問いかけると、彼女は一瞬沈黙した。


「……少なくとも、これ以上広がらないようにしないと。」


グリッチャの声には迷いがなかったが、その裏に隠れた不安はシリルにも伝わっていた。


「わかった。オレたちだけでやるしかないか。」


シリルは端末の操作に集中し、浄化プログラムを強化する追加モジュールを投入した。緑色のラインが再び勢いを取り戻し、ノイズを飲み込んでいく。しかし、そのときだった。


「……シリル、待って!」


グリッチャの叫びが響いた瞬間、黒いノイズが突如として形を変えた。霧の中心が収縮し、まるで何かが生まれ出ようとしているかのようだった。


「なんだ、これ……?」


シリルは端末越しに見える異様な光景に息を呑んだ。霧の中心から現れたのは、無数の文字列が絡み合って形作った巨大な「手」だった。それはゆっくりと動き出し、シリルの方向に向かって伸びてくる。


「こんな汚染、聞いたことないぞ!」

「シリル、退避して!速すぎて……対応できない!」


グリッチャの声が切迫している。しかし、シリルはその場から動けなかった。目の前の手の中に、ただの汚染とは思えない「何か」が宿っているのを感じたからだ。


「クッソォ。掃除界の新星、シリル様を舐めんっなよ!!」


足元に伸びる手を軽々と飛び超えながら、シリルは呟き、手元の端末を握りしめた。


「おい、グリッチャ。これ……暴走AIの残骸じゃないぞ。見えるか……なんだこれ?」


その言葉に、グリッチャが息を呑む音が通信越しに聞こえた。


「残骸じゃない……ってどういうこと?」

「わからない。でも、この反応……まるでオレたちを見てるみたいだ。」

「見てるって……?」


その瞬間、黒い手から低く冷たい声が響いた。


『ようこそ、人間。キミたちを歓迎しよう。』


性別を超えた不可思議な声が響いた瞬間、シリルの全身に悪寒が走った。汚染データはこんな発声はしない。黒い手はゆっくりと動き、まるでシリルを掴み取るように近づいてくる。


「シリル、動いて!今すぐそこから退避して!」


グリッチャの声が通信越しに叫ぶ。


「わかってる!だけど、これ……逃げれんのか……!?」


シリルは端末を握りしめたまま、黒い手を見つめていた。異様な気配。そこには、まるで「意志」が宿っているかのような存在感があった。


「何でもいいから逃げるのよ!プログラムを起動する!」


グリッチャの指示に、シリルは我に返った。急いで端末を操作し、彼女が用意していた緊急脱出プログラムを受け取る。


「最ッ高だぜ!相棒!!」


シリルがそう呟いた瞬間、足元に現れたのは滑らかな光の板――飛行型スケートボードだ。データで構築されたそれは、ネット空間内を高速で移動するためのグリッチャ特製のツールだった。


「乗って!追いつかれる前に!」


通信越しに聞こえるグリッチャの焦った声。


シリルはスケートボードに飛び乗ると、一気に加速した。風のように滑るボードは、ネットの海を切り裂くように疾走する。


「速い!でも追ってきてるぞ!」


振り返ると、黒い手が霧を引き裂きながら追いかけてきていた。動きは鈍いが、その圧倒的な存在感が彼を飲み込もうとしているのがわかる。


「シリル、もっとスピードを上げて!こっちよ!出口まであと少し!」


グリッチャの声が指示を飛ばす。シリルは体重を前に傾け、さらに加速した。


周囲の景色が高速で流れていく。データの断片が光となり、彼の視界を駆け抜けた。背後では、黒い手が次第に遠ざかっていく。


「よし、逃げ切れそうだ!」


シリルは息をつきながらも、気を抜かずに出口を目指す。


だが、その瞬間――


「……まって。」


背後から、再び声が響いた。振り返ると、黒い手が最後の力を振り絞るように伸び、シリルのボードに迫ってきていた。


「くそっ……!」


シリルはボードを急旋回させ、手の届かない位置へと飛び上がる。背後で黒い手が虚空を掴み、そのまま霧の中へと消えていった。


「ふぅ……助かったのか……?」


シリルはボードを滑らせながら、周囲を見渡した。出口はもう目の前だ。


ネット空間の端に設けられたゲートをくぐると即座にゲートが『封鎖』された。その瞬間にびたびたびたっ!と、扉に無数の手が当たる音が響いた。黒い手も、それに伴い完全に姿を消した。


スケートボードを降り、シリルは膝に手をつきながら深く息をつく。通信越しに聞こえるグリッチャの声が、少しだけ安堵の色を帯びていた。


「よくやったな、シリル!」


肩で息をするシリルの前に、グリッチャのアバターが現れた。何度見ても実に生意気そうな三毛猫である。


「はあはあ……死ぬかと思った……」

「仮想現実よ。ここで死ぬわけないでしょ」

「それぐらい、焦ったって意味だよ」


シリルは手のひらを広げ、空を見上げた。まだ心臓がバクバクと音を立てている。彼の目の前に現れた三毛猫のアバターは、片耳をピンと立ててシリルを見つめている。


その先にはグリッチャが封印したゲートがあった。


「グリッチャ。あれ……なんだったんだ?」

「分からない」

「分からない!?お前でも分からないことがあるんだな」

「うっさいわねぇ……」


そういうと、グリッチャのアバターである三毛猫がぴょんと跳ねてシリルの頭上を通り過ぎて、ネット通販の広告メールの上に乗った。


「おーい。どこいくんだよ!ラーメン食いに行かねーのかよ」

「今日はもう疲れたから寝るー」


グリッチャは気持ち程度に尻尾を振って行ってしまった。


「……なんだよアイツ。子供みたいに不貞腐れやがって」


決められた方向に進んでいく広告メールの上に乗るグリッチャの丸い背中を見つめながら、シリルは自分も“ログアウト”した。


ゴーグルを外すと、思っていたよりも目がしばしばとした。


視界が一瞬ぼやけ、瞳を擦ってからテーブルの上に置かれた目薬を手に取る。滴を一滴、二滴と目に垂らし、軽く瞬きを繰り返した。


シリルこと、山田恭平は、グッと手足を伸ばして、久しぶりに自分の体の感覚を確かめる。肩が軽く鳴り、背中の筋肉が伸びていくのを感じた。もう夕方だ。時間が経つのが早すぎて、少し驚く。


ネットの掃除アルバイトは自由も効くし、成果制なのでありがたいが、椅子に座る時間が長いほど寿命を縮めるとも聞いたことがある。


そんなことを考えながら、シリルはふと天井を見上げる。目を閉じて、深呼吸をしてみる。どこか遠くから聞こえる車の音や、外の風の音が部屋に静けさを与えている。普段なら気にしないことだが、今日は何故か無性に耳に入ってくる。


「この世には楽に稼げることなんてないんだな」と、ぼんやりと考えた。だが、その思考はすぐに途切れる。


先刻の“黒い手”を思い出して、鳥肌がたった。


その手が、確かにシリルの目の前に現れた。霧の中から現れたあの手が、ただのバグやデータの異常ではないと、何故か確信してしまう。背筋が冷たくなる。


けど……あれ、なんていうか。

あいつ、生きてるみたいだった。


シリルは最後の言葉を飲み込みながら、視線を手元の端末に落とした。そこには、霧の中で観測したデータの断片が残されていた。

・書いてみた後に『攻殻機動隊じゃん』ってなった。

・知識がないので、もう少し勉強しないとこれ以上は書けないなと感じました。

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