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93 野洲川の戦いへ

 隼介が岐阜から坂本城まで越前若狭回りでやって来たのは昨夜半であった。

 馬を換えながら供廻りのみの強行軍であった。


「隼介、何事か?美濃に異変でもあったか?」

 汚れたままの姿で三郎の前に出た隼介に驚いた三郎の最初の一言であった。

「あちらは予定通りです。喜兵衛に任せて来ました。間もなく引くことになると思います。それまでに安土城を落としましょう。」


「それがなぁ」と三郎が、今日、勅使が来た。

 対面は明日の朝まで引き伸ばしたが、内容は和睦じゃ。織田が朝廷に泣きついたらしい。

 わが軍が安土城を目指し瀬田川の渡河を敢行し、瀬田川の東側にいた織田の部隊を追い払って橋頭堡を確保したのが昨日であった。

 今は4万の大軍を渡すため瀬田川に橋を掛ける作事を進めている。

 また、湖東からは斉藤朝信嫡男景信が兵2万を率いて佐和山城に向かっていた。


「では、三郎様いや内府様、暫く病で臥せって頂きます。疫病の疑いがあり面会出来ないと致しましょう。3日もあれば済みましょう。」


 先鋒は明智光秀、主将は上杉景信の予定である。

 向かう安土城は守りの城ではない。信長が相手なら野戦に打って出てくるはずである。

 それも我が方の2つの軍が合流する前に個別撃破を狙ってくるだろう。

「隼介、決戦よな。」

 三郎は武者震いするなぁ、と隼介の顔を見ながらニッと笑い、

「寝てはおれんな。我等の生き方の総決算じゃないか。」

 隼介も三郎の顔を見ながら、

「勅使はよろしいので?」

「戦から帰ってから付き合ってやろう。」

 2人で笑いながら、

「行くぞ!」

「では、参りましょう。」

 2勅使を置き去りにして旗本を中心に残っていた兵を編成すると勅使が止める間もなく城を出た。


 瀬田川を渡った先に上杉軍は本陣を置いていた。

 三郎と隼介が到着すると既に武将達が集まっていた。

 相変わらず低くよく通る声で、

「皆、よく集まってくれた。これより野洲川まで出張る。恐らくここが戦場となろう。」


 左右の床几に腰かけた諸将を見渡すと明智光秀に目を止め、

「明智日向守右翼先陣を申し付ける。」

 光秀は床几を外し片膝を着くと静かに、

「畏まりました。わが力ご覧ください。」

 三郎は頷くと次に

「甘粕近江守、左翼先陣を申し付ける。上杉の強さ畿内の侍どもに見せつけよ!」

「承知!」と野太い声が響いた。

 他の配置は直江大和守から申し付ける。

「不承知!柿崎が上杉の先陣を努めるのは先代よりの慣例、このままでは私は不肖の子となりましょう!」

 真っ赤な顔で大声を張り上げて抗議する晴家を手招きすると耳の側で一言二言囁いた。

 晴家は途端に表情を変え

「承知しました。」と何事もなかったかように自席に戻った。


 席が落ち着いたのを確認すると、

「織田は思った程集まっておらん。3万居るかどうかじゃ。一挙に片を着けるぞ!」

 そして、皆の士気を鼓舞するように高らかに

「出陣する!」と宣言すると上杉軍は野洲川に向かって動き始めた。


 琵琶湖に向かって流れる野洲川は河口近くは洲を形成して本来なら豊穣な農地が拡がっていてもおかしくない土地である。

 しかし、現実は河原には小石がゴロゴロし、ところどころに芦が群れている。

 河岸に立つと対岸まで川幅は1町ほどあろうかと思われる。対岸を見るとこちらと変わらない風景が続いていた。


「渡れないような場所はなさそうだな。」と観察し、それにしてもこの土地の荒れようはどうだ。豊穣な農地に出来るのに勿体ないとここに至っても農地のことが隼介の頭から離れなかった。


 野洲川の対岸には織田軍は信長が自身で出てきて陣を張り戦いの態勢を整えつつあった。

「思ったより少ないな。」首をひねりながら何処かに伏兵を隠し横槍を入れる気でいるのではないか?と思えるほど兵が少なく見えた。


 横に居る三郎を見ると真っ直ぐ織田軍、信長の唐傘の馬標を見つめていて迷いはないように見える。

 何故、これだけしかいない?大和の松永は京から河田長親が兵を出して牽制した。

 摂津の池田も見当たらない。三木への工作が上手くいったか?

 物見部隊を周辺には出して調べているが今のところ報告はない。

 今は三郎の戦勘が頼りだ。

 我らは三郎に従って戦えば良いだけだ。と自身に言い聞かせると気持が落ち着いてきた。


 三郎は対岸の様子を見ている。

 じっと見ている。

 そして手に持った采配を大きく掲げると「かかれ!」と采配を振るった。合わせて攻め太鼓が鳴った。

 先陣の明智勢、甘粕勢から遠鉄砲が放たれ敵陣への攻撃が始まった。鉄砲が止むと同時に声を上げながら先陣から川を渡り始めた。



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