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91 岐阜城のこと

 隼介は近江に居る上杉軍主力との合流を考えてみた。

 このまま岐阜に居ても補給が続かず尻窄みになるだけだ。

 ある意味この岐阜城攻略は『中入り』であったのだから。


 岐阜城を落とせるとは思っておらず、織田軍を撹乱し近江方面が少しでも手薄になればいいと考えていた。

 そのために引き込んだ武田だったが勝頼の意地がここまで戦果を拡げたと言っていいだろう。


 この上、関が原を確保できれば近江の上杉軍と繋がり大きな戦果になっただろう。だが、織田の手当が速く手が届かなかった。確保できなかったのだから早々に引くべきだ。と頭の中で警鐘を鳴らし続けていた。

 近江方面への牽制は十分果たしたのだ。深みに嵌まらぬうちに引くのだ。


 問題は武田だ。念願の岐阜城を手に入れた。世間に武田の強さを示すことができた。織田の本拠地、岐阜城を落とした。やすやすと手放せるだろうか?


 喜兵衛が言うにはそろそろ遠江方面で尻に火が付く頃だろう、徳川が攻勢に出てくるだろうと言うが、我が手の者の情報によれば徳川は日和見するのではないかという。

 家康は自分の売り時を考えているのではないか?

 織田に残るか、我が方に鞍替えするか、じっと戦況を見つめているのではないか。

 とすれば我等は今暫く岐阜を保てることになる。


 岐阜に我等がいることは織田の領国深くに刃物を突き立てている状態だ。牽制の効果は抜群であろう。しかし、それはまた引き時が難しいということでもある。

 では、このまま維持できるかというとそれは織田次第であろう。

 我等が確保したのは土地は石高にして10万石余り、養える兵は3千ほど。

 緊急時に援軍がくるまで早くて1月は掛かるであろう。その間耐えることが出来なければ維持していけない。

 では、今の3万を駐屯させればいいではないか?と思うかもしれないが現実的ではない。駐屯の費用、輜重の輸送能力を考えると早晩耐えられなくなるであろう。

 現実に食料、武器弾薬は越前から油坂峠越えで運んでいるが、整備されていない急坂を越えて来るのは並大抵ではない。


 それならば頭を切り替え、攻勢に出ることも選択肢の一つになるかも知れない。

 西に向かって大垣城を落とし、展開する織田軍を破れば、関が原を越えて近江の上杉軍と繋がる。

 あるいは思いきって尾張まで攻め獲れば、本国から独立して生きていける。

 さてどうしたものか?

 織田の動きを見ると安土城と清須城の2ヵ所に兵を集めている。

 織田は関ヶ原を通れるし、最悪八風街道もある。連携できるであろう。


 翻って我が方は、三郎様は順調に進んでいるようだか、斉藤殿はなかなか予定通りには進めていないし、何より武田軍が思うようには動いてくれない。

 勝頼様は少々舞い上がっているようだ。

 おそらく岐阜から引くことはないだろう。


 この戦、全体を俯瞰して見てみると、第1の目標である三郎様の上洛は為し遂げたと思う。明智光秀殿、津田信澄殿を味方に引き込むこと。これが第2の目標。織田の足腰を折ってしまうこと。これが最終目標。信長の復活で織田は勢いを取り戻しつつある。どこかで叩く必要はあるな。

 そう考えると岐阜は要地ではある。


 やはり尾張に進むか?

 悩む案件はろくな結果にならんからなぁ。

「何を悩んでいる?最初考えた通りさ。」

 喜兵衛は笑いながら茶化すように言う。

「尾張に進むにして織田が只でくれると思うか?」

 お主が言ったようにここを保てるだけ保つ。それだけさ。

 引く時に四郎(武田勝頼)様が嫌がるなら置いて行けば良い、それだけさ。

 あまりにあっさりと言う昌幸、「喜兵衛よ、勝頼殿はお主の主君ではないのか?見捨てるのか?」

「主君は主君としての役割を果してくれねば主君とは呼べぬのでな。四郎殿が我が生命を賭けるに相応しいかどうかハッキリすると思うぞ。」

 喜兵衛よ、遠くからの目線で観ておるのだな。


 喜兵衛の言葉で腹は決まった。

 事態が動き始めるまで、遊撃戦を展開することにしよう。

 喜兵衛父子は喜ぶだろう。

 領民は悲惨だな。今年の収穫は諦めて貰う外ないな。この冬の美濃尾張の民の苦しみが瞼の裏に浮かぶようだ。俺も外道になったもんだなぁ。


 岐阜城の再建の目処を着けた勝頼から兵を尾張へ出すので此処を頼むと連絡があった。

 補給の難しさに気づいて一か八か賭けに出たのかも知れない。

 思わず苦笑いをし、喜兵衛の顔が浮かんだ。

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