表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/108

88 三郎、坂本城にて使者をもてなす。

 坂本城から京は指呼の間である。

 三郎の命を受けた河田長親は兵1万を率い神余親綱と共に足場慣らしに京に向かった。


 朝廷の使者である甘露寺経元と勧修寺晴豊が朽木陣屋から到着した。

 居間にいた三郎は早速小姓に手伝わせ衣冠束帯に身を包んだ。

「使者殿は何か言っていたか?」

 小姓の真田信繁は平然とした顔で

「瓜なり瓢箪は特になにも、それどころか御屋形様のご機嫌はどうじゃと心配しております。」

 はっはっはっ、

「相変わらず口が悪いの、ではついでに使者殿にこう申し上げてこい。」

 三郎の指示に目を爛々と輝かせた信繁は大広間に向かった。


 大広間の上座に置かれた使者2人は落ち着きのない様子で座っていた。

「上杉は先代から御上大事であった家、何の心配もなかろう?」

「ならば、何故前関白が来られませぬ?最も関係が深いはず。」

 襖の向こうから、「申しあげます。」と声が掛かった。

 勧修寺晴豊は思わず、上擦った声で「何事か?」

 襖の向こうで、信繁がニタリとしながら、「我が主三郎は無位無官でございます。御使者様のような貴人の前に出ることは出来ぬし作法も知らぬ、とオロオロとしております。何卒、今回の御面会は御容赦願いたいと申しております。」

「その様なこと、気にせずとも良い。直ぐに参れ。」と伝えよ。

「それが・・」と口籠ると

「それがどうした?」

「我が主三郎は、先代様の名誉を汚す訳には参らぬ。上杉家の恥じゃ、と申して部屋を出ようと致しません。」

「困ったのう、ちょっと囁くでな、上杉殿に伝えよ。良いか朝廷は従二位内大臣を用意しておる。」

 してやったりとほくそ笑んだ信繁は、

「はっ、確かに受けたまわりました、織田右府様の下の内大臣でございますね。」

 あっ、

「まて、これは一時の処置じゃ、京に行けば位も官もさらに上がる。」

「では、さよう伝えます。」

 これが前関白が来なかった訳か・・

「どう致しましょう。京に戻ってどう説明すればよろしいでしょう?」

「致し方なかろう、なるようにしかならんわい。」

 その瞬間、「上杉三郎、参りました。」と襖が開き束帯姿の三郎が現れた。

 上使の二人は思わず苦笑いをした。既に準備しておらねば今この姿で現れまい・・

 甘露寺経元が宣旨を読み上げた。

「藤原朝臣景虎、従二位内大臣に任ずる。直ちに上洛し宸襟を靖んじ奉るよう。」

「謹んでお受け致します。」

「御使者様には、別室にて中食を用意致しております。お口に合えばよろしいのですが。」と和やかな会談を宴で締めくくった。


 別室では、鞆幕府からの使者2人が、

「細川殿、上杉様は上使をお迎えになり、そちらに掛かりっきりの様でございます。」

 細川輝経に真木島昭光が語り掛けている。

 2人は鞆幕府から将軍足利義昭の名代として派遣され、三郎との面会を待っていた。

「我等を無視するつもりか?」

 と言うと、大声で、

「誰かある!」

 おもむろに襖が開き、「何事でございましょう?」と取次の武士が対応した。

「三郎殿にはいつ会えるのだ?」

 武士は首を捻ると、「さあ?」と答えるのみである。

「お主ではわからん!誰ぞ分かるものを連れて参れ!」

 暫くすると、襖が開き、

「小姓頭真田信繁でございます。」

 細川輝経が、

「我等は幕府の使いである。もう半日も待たされておる、いつになったら三郎殿に会えるのか?」

「おお、そんなにお待たせ致しましたか?申し訳ございません。」

「分かれば良いのじゃ。」

「本日は会うことは敵いません。早々にお帰りください。もっと早く言うべきでございました。」

 なにぃ!

「幕府の使いと言っておろう!この粗忽者が!直ぐに取り次げ!」

 ニコニコとしながら信繁は、

「無理でございます。本日はお引き取り下さい。」

 真木島昭光が激昂して、

「下郎!誰にものを申しておる!直ぐに、直ぐに取り次げ!」

「おお、こわ!」

「取り次いでもようございますが、朝廷の御使者と同席ということになりますが、ようございますか?」

「どういうことじゃ?」

「三郎様、内大臣宣下の祝いでございます。ご案内いたしましょうか?」

「その様なことがあるはずないではないか、三郎殿は無位無官、いきなり内府などあり得ぬ!」

「本日、御屋形様は従五位下越後守に始まり従三位参議など経て従二位内大臣となりました。お祝いにお越し頂き誠にありがとうございます。」

 昭光の目が泳ぎどこか上の空で、

「それは目出度い。改めて明日参るとしよう。」

 城で割り当てられた部屋に戻ると、細川輝経は「明日、鞆に戻ろう」と言った。

 三郎の位官が将軍より上である以上命令は出来ぬ。

 我等がへりくだらねばならん。今日放って置かれたのはある意味三郎殿の温情かもしれん。

「帰って再び参じよう。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ