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86 三郎、光秀と意気投合す

 三郎は自ら参戦する者達をも連れ小浜を発った。その数2万5千に達していた。

 河田軍が通った道をゆるゆると進んでいく。

 途中挨拶に訪れる者、参戦を申し込む者など謁見するのに忙しく中々、前へ進んで行かない。中には土地を取り戻して欲しいと嘆願する者、陣を借りたい、から従属を申し出るものまで多種多様の話を聞きながら行軍していく。

 朽木に達した時、先行した河田から伝令があり、軍を右京亮景信に任せると自身は供回りだけを連れ馬を飛ばし大溝城に向かった。


 大溝城では、河田長親が津田信澄と明智光秀と共に待っていた。

 三郎は、大股でドンドンと長い廊下を歩いて行く。小姓達は小走りでついて行く。

 大広間の前に来ると襖を勢いよく開けた。

「お待たせした。三郎である。」

 河田長親は苦笑いし、

 津田信澄はびっくりして固まってしまい、

 明智光秀は律儀に平伏した。


「明智殿、津田殿、儂は京に登り日ノ本津津浦浦に惣無事令を出し戦のない世を創ろうと思っておる。」

 いきなりの言葉に2人は面食らった。

「お館様、先ずはお座り下さい。」との長親の言葉に頭を掻きながら上座に座った。

「大まかな処は話してございます。御屋形様のお気持ちをお話下さい。」

 光秀と信澄の2人は三郎の考える世界を理解するだけの柔軟な頭を持っていると長親からの報告にあった。

 すまん、すまんと三郎は苦笑いしながら

「2人もそうだろうが、皆も儂も幼き頃より戦の中で生きて来た。」

 その場に居るものの全てが頷いた。

「元服前の数年間は僧として関東諸国を歩いて回っていた。別に己が行きたくて行ったわけではない。師匠から行けと言われて仕方なく巡っていた。そんな儂でも行く先行く先で飢えに苦しむ民を見たし、この手の中で息絶えた子供もいたのだ。そして何も出来ない己が歯痒かった。」

 その時のことを思い出したのか三郎は涙を拭った。

「そうなることの最も大きい原因は戦だ。侍は勝った負けたと騒ぐが民は田畑を荒らされた上に年貢を取られる。さらに酷いときには奴隷として売られた。」

 その声は悲しさと怒りが混ざり

「その全てが侍の都合で行われている。理不尽とは思わぬか?」

 それは侍として生きてきた者にはなかなか理解できないものであった。

「子供がこの手の中で息を引き取った時、儂が戦の世を終われせようと漠然と思ったのだ。その思いだけでここまで来たと言っても良い。儂は、侍も領民も己の生き方は己で決められ、理不尽な死がない世の中にしたい。」

 伊豆の山中での出会いを思い出し、

「そうした時に大和守(隼介)と出会ったのだ。ここでは隼介と呼ぼう。隼介の知る国では、侍も領民もなく皆から選ばれた者が集まって衆議を行って国を運営するそうだ。」

 この部分を理解する頭を持つ者は少ない。

「いきなりそれは無理だろうが、どうすれば戦のない世を続けていけるのか考えているのだ。2人にも一緒に考えて欲しいのだ。」

 戦を無くす、夢のような話である。

 少し間を置き、

「そのための方法として我等が創ろうとしているのは『政府』といい、侍のための幕府ではない。」

 じっと聞いていた信澄が、

「その政府と言うのはどの様なものなのでしょうか?」

 三郎は信澄を見つめると、

「武家や公家が衆議で国の行く方向を決める。民からも優秀なものは(まつりごと)に参加出来るようにする。」

 簡単に言うとそういうものだ。

「では、三郎様は征夷大将軍は目指さぬのでしょうか?」

「政府を置くのに征夷大将軍の位が必要なならば否定はしない。できるだけ、今の制度を使おうとも思っている。」

 だが、先ず行うのは、そこではない、

「わが越後は既に飢える者は居ない。これを日ノ本全体に拡げる。誰も飢えない国を創る。そして教育だ。」

 光秀を見て、

「公家も武家も民も生命の重さは等しい世を創りたい。なかなか一息には難しいだろうが、それを目指す。」

 先ず、農業の改革そして教育だ。


 信澄が再び、

「武家は苦労して今の領地を得ています。彼らをどうするのでしょうか?」

 即座に、

「どうにもしません。彼らの国は彼らのものです。ただし、国境の関を無くします。それと石高に応じて毎年政府に税を納めて貰います。高は1分を考えています。この税で政府を運営します。」

 光秀が首を傾げながら、

「国境の関を無くせば民が勝手に他国に移ることができる、領主は認めぬのではありませんか?」

 でしょうな。

「ですが、それを成さねば領主の暴政を許すことになります。住む国は民が選ぶのです。しかしまだまだ、問題はあります。ですが、やがて一つの国にするためには必要なのです。」

 一つの国ですか?

「そうです。一つの国です。日ノ本が一つにならなければ南蛮の国々と渡り合うことは出来ません。」

 光秀の頭脳は三郎の思考を受け入れることが出来たが、実現は難しいのではないかと思った。

「隼介がそのうち参りましょう、皆で少しでも理想に近づくよう考えて行きましょう。」

 この三郎の柔軟さがあれば、理想の6,7割まで近づくことができるかも知れない。

「微力ではございますがお手伝いさせていただきとうございます。」

 と2人は平伏した。

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