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81 信長、織田家の危機に立ち上がる。

 木ノ芽城での戦闘が始まる少し前のことである。

 越前の山奥の寂れた寺では5人の小姓と共に世捨て人のように過ごしていた信長にも変化が訪れようとしていた。

 最も信頼した家臣の明智光秀、羽柴秀吉に裏切られた信長の許に麓の村人が新たな情報をもたらした。「上杉軍が府中に集まり始めている。」

 上杉軍の第1陣は既に府中をでたはず?では上杉は第2陣を用意していたということか?機動力だけでなく兵力でも織田軍を凌ごうとしているのか?信忠で耐えられるか?

 信長は本堂で座禅を組み一晩かけて結論を出した。


 ほとんど米の入っていない草粥の朝餉を摂りながら、小姓たちに向かい「皆、帰るぞ!力丸歩けるか?」

 声を掛けられた力丸は信長様が某の身体を心配してくださる、と思わず顔を紅潮させながら

「上様、この通りもう大丈夫でございます!」

 力丸の返答に頷き、その横で碗を啜っている和尚を見ると

「世話になったな和尚。貴公はこの様な場所で朽ちる器では無かろう?一緒に来ぬか?」

 手に持っていた碗を静かに置くとじっと考え

 今一度、機会が巡って来たか・・

 一度は世を捨ててみたがやはり未練はあるな・・

「お伴致しましょう。」

 一行は旅の仕度を始めた。


 上杉軍に動く予兆あり。との報が津田信澄と羽柴秀吉から間をおかずに安土城に入った。

 信忠は在城の将と近江を守る将を大広間に集めた。

 最前列には明智光秀、羽柴秀吉、佐久間信盛、滝川一益そして復帰なった丹羽長秀が並んだ。それぞれが1万の兵を動員出来るであろう。

 丹羽長秀は結局左脚が完全には戻らず、城内で杖を使うことを認められていた。

 その後に諸将が並んだ。


 織田家が上杉軍に割ける兵数は凡そ7万である。

「皆、状況はわかっておるな。」

 信忠は集まった諸将を右から左へと見た。

「上杉軍は、湖東、湖西の両方から来る。」一呼吸おいてもう一度諸将を見た。誰も動揺はしておらんようだ。

「湖東方面は羽柴を主将として丹羽長秀が副将を務めよ。」

 兵は3万!

「湖西は明智光秀を主将として佐久間信盛が副将を務めよ。」

 こちらも兵は3万!

「滝川一益はここに控えておれ、大事な時に出てもらう。」

 集まった諸将に素焼きの盃が配られ、酒が注がれた。

「良いか!上杉ごときは淡海の海に叩き落としてくれる!」信忠は盃を一気に飲み干した。それに続いて諸将も飲み干し「行くぞ!」の掛け声とともに盃を叩きつけた。

 織田家は一応信忠の基に纏まっているようにみえる。


 信長一行は美濃に向け油坂峠を目指していた。

 油坂峠から郡上へ抜け、岐阜へと向かう予定である。

 朝餉を摂り準備を調えてから寺を出て、山脈の向こうからやっと顔を出した太陽からの陽射しを浴びながら坂道を登る。

 まだ、暑い季節でもあり一行は汗が噴き出していた。

 やがて、見晴らしの良い場所に出ると「小休止!」となった。

 竹筒の水を飲んで喉を潤していると、力丸が、

「あれは、上杉軍ではございませんか?」

 遠くにこの峠に向かっている一団が木々の切れ間に見え隠れしている。

「間もなく寺の辺りを通ります。」

 目を細め、じっと見てみると木々に覆われた街道に沿って巨大な蛇が蠢いているようにみえる。少なくない数であることが見て取れた。

「8千か1万か、そのあたりだな。旗を巻いて急いでいるようじゃな。」


 誰が、何処へ、何のために。

「和尚、どう思う?」

「上杉の知恵袋は直江大和守です。何を考えるか予測が付きませんからな。」

「で、和尚は白隼がどう動くとみる?」

 信長様も直江の事は頭に入っているようだな、

「軍の動きを見ると急ぎ油坂峠を越え、長良川沿いに進軍して岐阜城を急襲するというところでしょうか。」

 他には?

「岐阜城も無視し、関ヶ原を越え長浜城へ、かも知れません。」


 和尚は、ハッと閃くものがあった。

「もう一つは、武田の参戦です。岩村城から犬山城を経て岐阜城へ至るというものでこの場合は美濃を獲りに来たということでしょう。」

「それだな。」しかし、それだと上杉軍全てが囮か?何ということだ、常識というものが無いのか?

「急ぎ岐阜に帰ろう。」

 一行は再び峠に向かって歩き始めた。






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