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80 三郎、上洛戦を開始する。

 小浜の街の周辺にはあちこちに上杉軍の軍旗がはためいている。

 それを横目に街に入ると人々の沸き上がるような活気が伝わってくる。

 一色義俊は、供回りだけを連れてこの街に来た。

 街の周辺に展開する上杉軍からも街の衛兵からも特に咎められることもなく街中に入ることができた。

 緊張に身が竦む思いをしながら丹後を出てきたが拍子抜けするほどでこんなに緩くて大丈夫かと逆に心配になるほどであった。街の周辺とは違って街の中には目立つほどの兵は居らずいつもの生活があるようであった。上杉の政庁は湊からそう離れていないところにあり、門の左右には『龍』の旗標が掲げられていた。


 湊には船が多数入り、中には明のジャンク船も見受けられた。

 上杉の政庁は、壁に囲われただけで堀もなく大きな庄屋に門がついただけと言った佇まいである。


 供の者が門番に訪いを告げると脇から案内の武士が現れ、

「一色左京大夫様御一行、ご案内申し上げる。」

 と来訪を予期していたかのように先導してくれた。

 馬を降り、供の小倉播磨守と2人で、政庁へ上がった。

 政庁の中は人が行き交い、多くの者が机に向かうなど活気に溢れていた。

 街といい、政庁といい活き活きしておる・・

 対面の間と呼ばれる8畳ほどの部屋に通された。

「河田豊前守がお相手仕ります。暫くお待ち下さい。」

 河田豊前守・・小浜を任されている大将よな、自ら対応して貰えるか・・

 2人で取り残されると政庁の喧騒が遠くに聴こえる。

 羨ましい・・


 ばーんと襖が勢い良く開いた。

 何事かと身構える2人に、

「よう来られた!上杉三郎じゃ!」

「えっ!」

 三郎様は敦賀では?と目が釘付けになった。

 三郎はいきなり義俊の前に座り込むと義俊の手を取り、

「一色殿、共に日ノ本のため手を携えて参ろう!」

 えっ、この人はいきなり何を言い出すんだ。義俊は胸がバクバクしていた。

 改めて上座に座った三郎は、義俊の側にいる小倉播磨守に

「小倉殿よな、一色家の柱石と聴いている。これからも忠勤を励め!」

 2人は呆気にとられ、そして刮目した。

 これが越後の龍か!敵わん!敵わん!

「すぐに答えを出すのは難しいかも知れんが、儂と共に行こうぞ!」

 横から笑顔で河田長親が、

「お館様、後は某が話しましょう。」

「そうか、頼む。」と言うと部屋を後にした。

 あ然とした顔をした2人に、笑顔で、

「上杉と共に進まれるのなら慣れることです。一度、加賀か越後に行って見られませんか?上杉の力が判ると思いますよ。」

 越後か・・どんな処であろうか?

「明後日、越後行きの船が出ます、行く気があれば手配いたします。ゆっくりお考え下さい。」

 そう言うと部屋を出ていった。


「小倉、今のは何だったのだ?」

 小倉も呆気にとられたまま、

「某にもさっぱり。ただ、現れたのは上杉三郎様かと。」

 義俊は河田が言った言葉を思い出していた、

「儂が越後に行ってみたいが無理だ。代わりにお主が見てきてくれんか?」

 ここまで話したところに、家士がやって来て客間に案内された。

 結局、小倉播磨守が越後を訪ねることになり越後との定期船に乗ることになった。他にも丹波の波多野の家老など数人が乗り込んだ。

 義俊は、上杉は領国経営に自信があるのだろうな。武力で威したりはせぬが無言の圧力もなかなかの迫力なんだろう。

 丹後への帰りに出陣の準備を終え今にも動き出しそうな上杉軍を見て、それにしてもこの大軍、上洛軍だろう。一緒に上洛するのとせぬでは後々雲泥の差が出るのではないか?

 急ぎ帰り軍を連れて共に行く事にしよう。


 三郎は小浜にあって上洛軍に出陣を命じた。伝令が各地を駆け回り、それぞれの軍の近江国境を越える日を申し合わせた。

 斉藤朝信が越前府中から木ノ芽城に向けて、柿崎晴家が敦賀より発し途中で斉藤軍と合流し、山本山城、長浜城へ向かう。

 河田長親は若狭小浜を発し、九里半越を朽木に出て大溝城を目指していた。それぞれの軍が1万5千の兵を擁していた。

 三郎は1万5千の兵と小浜にあった。丹波、丹後からの援兵をも糾合して後から進む予定である。

 隼介は斉藤軍を追う形で1万の兵を率いてすでに越前は福井まで南下していた。


 越前と近江の境目の城である木ノ芽城でまず戦端が開かれた。

 城将は羽柴家臣の前野長康。信長を襲いその後も行方を捜すためこの城を任せられていた。しかし、城兵は峠の左右の城に合わせて1千しかいなかった。

「上杉軍来る!」の通報を受けた秀吉は長浜から急いで援兵1千を木ノ芽城へ送ったが既に落城は目の前であった。

 斉藤軍は大筒で城の虎口を破壊し一気に城中に雪崩込んでいた。

「山本山城まで下がる。城の外まで来ている援兵と共に防ぎながら引くぞ!」前野は退き戦の難しさを十分に知っているが、この退き戦は、黒田官兵衛が考えた策戦でもある。

 そうそう崩れはしない自信があった。


 前野長康は撤退するにあたり自分が最後尾に位置する事を意識していた。自分を餌に上杉軍を予定地点まで引っ張り出すつもりであった。

 ところが上杉軍は木ノ芽峠に留まって時折遠鉄砲を放ってくる程度で追ってくる気配が無かった。

 くそ、策にかからぬか・・

 何度が引き返して挑発してみたが上杉軍は動かない。

 伏兵が無駄になったな・・

 途中、街道に向け発砲できるよう1千の鉄砲隊と3千の槍隊を伏兵として配置してあった。

 仕方なく隊列を整えると近江に向け山を下って行った。


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