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79 一色義俊、決断する。

 三郎は、無理に領土を拡げようとはしていない。

 ただ、必ずと言っていいほど隣接する領主には憎まれ、その領民からは憧れの目で見られた。

 上杉家の領地になれば、飢えないどころか米が食えると棄民し、上杉家の領地へ逃亡するものが後を絶たなかった。

 これを防ぐため隣接領主は境界に逃亡防止の兵を配置せねばならないほどであった。


 上杉家としては逃げてきた民を各地の荒地を与え開拓をさせた。向こう5年間は無税としていたし、耕地を改善するために実施する土木施設(ため池、用排水路、頭首工など)には、人も金も補助した。

 その費用は佐渡の金と貿易で賄っていた。日本海側の湊の多くを抑える事で内陸の国への貿易を独占していた。

 信濃などいい例で越後からの物資が無ければ生活が成り立たなくなっていた。

 日本海側の貿易を発展させるため、南蛮船を呼び込んだり、蝦夷地との貿易を模索していた。


 天正9年も9月になった。

 隼介は小田原から甲斐を経て越後へと帰った。

 北条と武田の現状と見通しを三郎に報告すると休む間もなく金沢へと向かった。

 三郎は既に動員令を出していて来月には若狭方面に兵を集める予定である。


 その若狭に隣接する丹後は一色氏の領地であった。一色氏は幕府四職の名門である。没落しつつある名門に有りがちな『古き善き時代』を後生大事にしているところがある。それだけに新しいものを採り入れるのに拒否感が有るのかも知れない。

 当主は一色左京大夫義道という。一色氏は既に丹後守護職も失い辛うじて丹後を実効支配していた。居城は田辺(舞鶴)にある建部山城である。


 日に日に領民が逃散し、中には村ごと逃散する所も出る始末であった。

 湊も最近は寂れてきていた、皆若狭に廻ってしまっていた。

 義道の弟、義清は危機感を持って建部山城を訪ねた。

「お館様にお会いしたい。」と対面の間で待つこと一刻、やっと出てきた義道は昼間から酔っぱらっていた。

「お館様、いや兄上、いったいどうなさったのですか?」

 目も虚ろで、舌も回らぬ声で、

「義清か?良う来た、お主も飲むが良い。」

 と言うと脇息にもたれ掛かり、寝息を発し始めた。

 横に寄り添うようにしていた嫡男の義俊が、

「叔父上、申し訳ございません。領民に見捨てられ、家臣の気持ちも離れ始めて打つ手がございません。父はこの惨状を直視できないのです。」

 気弱なところがある兄上だから無理は無いが、

「で、どうするつもりなのじゃ?上杉から呼び出しがあったのであろう?」

 義俊はしっかりとした声で、

「もう、カッコを付けている場合ではないと考えています。上杉三郎殿が若狭の敦賀まで来ているようなのです。この際、会いに行ってみようかと考えております。」

 下賤な敵の大将に会いに行くのか?

「上杉三郎は官位も持たぬ田舎者、四職筆頭の一色家の当主が膝を折って会いに行くというのか?」

「そうはおしゃいますが、幕府では関東管領でございましょう。幕府再興のため手を携えることができるのではございませんか?」

 ふん、

「それでも田舎者は田舎者であろう!」

 思わず溜息が出そうになる。

「叔父上、やせ我慢も大概にせねば家を保てません!」

 状況を少し説明してやろうか。

「上杉は敦賀に三郎と1万5千、小浜に1万5千、元から若狭にいる兵が1万5千が集まっております。これが近江に行くのか、丹後に来るのか全く予測が出来ぬのです。」

 儂を馬鹿にしておるのか。

「そのような事は儂でも掴んでおる!それ故ここに来ておる!」

 上杉は動きを隠すことがなかった、これは威しなのだ、もう諦めて上杉の傘の下に入れという。

「叔父上はどうせよと」

 最早どう仕様もないところに来ておるのに、

「和戦両用の準備をして野村将監あたりを使者として若狭に遣れば良い。戦いになってもこの城なら簡単には落ちん。」

 簡単には落ちなくても、誰が助けてくれる?

 結局、意地を張るだけか・・

 話しても無駄だな。

「将監では真意を疑われましょう、ここは私が名代として行ってまいります。その上で今後のことを考えとうございます。」

 好きにせよ!

 上杉家中の河田豊前守が小浜にいて、今回丹後の武将に集まるようにとの触れを出した。

 それを伝え聞いた丹波の武将まで集まり始めていた。

 日ノ本最強と云われる上杉軍が4万5千もの兵を若狭に動員した。その圧力は相当強力であった。






頭首工は川から取水するための施設一式の事です。井関はこの一部です。

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