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78 宗哲、北条を危惧す

 翌朝、厩で馬の手入れをしていた。今回乗ってきたのは『黒潮』5才牡馬、黒鹿毛で気性は比較的大人しい。

 その黒潮がいきなり歯を剥いて嘶いた。

 黒潮の睨んでいる方を見ると、まだ若い武士が供廻りを3人ほど連れて立っていた。

「昨日、来られた上杉家の方かな?」

 中肉中背、外見は目立ったとこのない若者だか、立ち上る青白い炎を身に纏ったような異様な雰囲気を持っていた。

「左様、上杉家家中でございます。」と腰を折り会釈をし、

「岡崎三郎様で御座いますか?」

 三郎は自分を視て恐れを抱かない武士に久方ぶりに会った・・何者・・と思い、

 隼介は、間違いなかろう?しかし、これは只者ではないな。と思った。

「いかにも、岡崎三郎である。その方の馬は悍馬なのか?」

 違いますよ、頭が良いだけですよ。

「某の馬が失礼致しました。」

 それだけの邂逅であったが、その場を立ち去る姿は風格さえ漂わせていた。

 ほう、流石だな。


「師匠、岡崎三郎殿を観ました。」

 隼介は宗哲の部屋で朝餉を共にし、岡崎三郎に出会ったことを話していた。

「そうか、その方の眼にはどう見えた。」

「まさに、飛び立つ前の龍でございましょう。」

 我らの三郎様とはかなり違い、もしかすると災厄の龍となるやも。

 誰かが上手く御す必要のある龍であろう。

「御師匠様や岡崎殿が宜しければ、上杉家にて処遇致しますが?」

「儂もそう頼みたいと思うてお主に来てもろうたんじゃが、先日、相模守が会うてからえらい気に入っておってな、間もなく小田原城内に屋敷を与えると言っておる。下総の結城晴朝の養子に押し込むつもりのようじゃ。」


 下総か・・利根川の向こうに独立勢力が出来そうだな。

「その様な所に置くと言うことを聴かなくなりましょうに。」

 隼介もそう思うか?

「相模守には何を言っても無駄なのじゃ。」

 御師匠に反発してか?自分を過信してか?

 どちらにしてもよい将来が見えないなぁ。

「お主に託そうと思うておる菊千代も、岡崎のことを兄の様に慕っておってな、取り込まれそうでの。早めに引き離すしかないんじゃ。」

 魅力的か・・若い者にはそう写るか?


「菊千代殿は私が責任を持って守って参ります、が、岡崎を小田原が御しきれましょうか?」

 小田原も5代目、既成勢力になってしまった。自由気儘に動くものを懐に入れるのは覚悟が必要だ。

「お主には儂の存念を話しておこう、景虎殿にも伝えて欲しい。」

 宗哲の話は、北条が急速に旧勢力化している。このままでは早晩終焉を迎えよう。相模守(氏政)はあのとおり頑迷じゃし、当代(氏直)は質はよいようじゃが父に逆らうことが出来ん、そうしている間にそれが習い性になってしもうた。最近は決断する時に目で相模守を探しておる。

 ダメじゃろうな、もう。

 救世主が必要じゃ。

 それは、おそらく景虎殿の外におらん。

 北条が崩壊する前に北条を併呑してくれ。

 それが民のためじゃ。

 そう伝えて欲しい。

「畏まりました。確かにお伝え致します。」

 宗哲は疲れたのか、白湯を口に運び目を閉じた。

 御師匠様も苦労される、北条家の重鎮と言うても口先だけの尊敬では意味がない。

 上杉家も他人事ではない、何か組織が常に活性化する方法を考えなければいかんな。


「御師匠様、岡崎三郎殿を毒ではなく薬とすることができませんか?」

 毒ではなく薬に?

「どういうことじゃ?」

 ただの思いつきですが、

「薬も使いようで毒になると言うではありませんか?」

 逆であろう、この慌てもの。と思わず笑みが零れた。

「結城などに出し自由にさせるより相模守様の側に置いて見たらいかがですか?」

「隼介、その毒が素早く廻った場合、北条の命運はあっという間に尽きるぞ。」

「では、氏照様の副将にしてはいかが?」

 ふう、

「お前、楽しんでおろう?」

 いずれにしても、儂の勝手にはならんな。

「隼介、考えてみよう。その内手伝ってもらうかもしれん。」

「何時でも。」

 結局、隼介の小田原帰還はこれで終わり、翌日、甲斐に向けて旅立った。



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