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77 隼介、久野屋敷に帰る

 隼介の騎馬隊は早足で馬を進めさせた。いつの間にか先導役の2人を置き去りにしてしまった。

 久野屋敷に到着すると大手門が開かれて、そのまま、門内に騎馬隊が吸い込まれた。

 塀沿いを馬場に至り、隊を止めた。

「隼介、見事じゃ!」

 馬場の端から声が掛かった。

 隼介は馬から降りると声の方へ小走りで向かった。

「御師匠様!ご無沙汰致しました!」

 幻庵宗哲の前に片膝を付き拝跪した。

 宗哲は隼介の手を取ると、

「直江殿、お立ちください。」と促す。

 そして、「隼介、立派になった!」

「中へ入れ!」と誘うと家人に向かって「皆にも夕餉を用意致せ!」

 と自ら隼介を案内した。


 夕餉の準備の間、宗哲の居間に招かれた。

 そこから見える庭は10年以上が経っても同様の景色を称えていた。

 三郎とはつが気にしていた2本の桜も青々と葉を繁らせていた。

 庭に気を取られていると襖が開き宗哲が嫡男いや当主の氏信と一緒に入ってきた。

 氏信も壮年になり、風格が備わっていた。

「長らくご無沙汰致しました。」

 突然、氏信が嗚咽を漏らし、

「この世で会えるとはおもわなんだ。よく戻った。」

 三郎たちが越後に養子に行った時は皆「あのものたちは殺されに行くようなものだ。」と噂していた。

 隼介は戸惑い、宗哲に助けを求めた。

「これ、大の大人が泣くな、儂まで目汁が出るではないか。」

 氏信の嗚咽は益々大きくなり、

「しかし、父上・・」

 宗哲は我が子を視て呆れた表情をすると、

「小田原では相模守はどう言うておった?」

 ちょっと躊躇しながら、

「相模守様は御不例で会うことは叶いませんでした。」

 なに!

「不例じゃと?あの馬鹿者が!」

 相模、越後の同盟の大切さがまるで分かっておらん、相手は上杉家一の重臣ぞ。

「すまぬ、隼介。あの馬鹿は未だにお主が三郎助の息子位にしか考えておらんようじゃ。儂からよう言うとくでな。許してくれ。」

 頭を下げる宗哲に恐縮し、慌てて、

「お師匠様、頭を上げて下さい、何とも思っておりませんよ。私はここに来るのが目的なのです。ただ挨拶に寄ったに過ぎませんから。」

「そう言うて貰えると助かる。」


 隼介は懐から2通の書簡を取り出し、

「こちらは三郎様から、そしてこちらは、はつ様からです。」

 じっとその文を見つめ、「これは後から」と横に除けた。

「はつからは時折、文が来る。何時も元気だから心配するなと書いてある。実際はどうなのじゃ?苦労しておるのか?」

 宗哲様も人の親だな。

「こちら居られたはつ様と今のはつ様は別人に見えます。」

 それは生き生きしていると言うことか?

「別人か?会ってみたいのう。」

 やはり宗哲様も親ですね、

「はつ様は料亭をやりながら回船問屋もおやりです。その内、西洋式帆船で小田原に来られるかも知れません。」

 西洋式帆船?

「上杉は西洋の船を持っているのか?」

 そうですよ。上杉はどんどん進んでいます。

「これは、口を滑らせました。御内密に願いますが、領内で造っております。その内西洋式帆船で船団を組みます。日の本だけでなく、唐やシャムまでも行くつもりです。」

 宗哲は眼を大きく見開き、

「上杉はそんなに先に行っておるのか?」

「是非とも北条も共に、と思うております。」

 思わず俯いてしまった宗哲は、

「2人とも大きくなったんだな。」

 雛が鳳へと育った、その間北条は眠っていた。

 そして宗哲は思い出したように、

「これの息子に菊千代と言うのがおる。今年元服させるつもりじゃ。隼介、預かってくれぬか?」後の彦太郎氏隆である。

 師匠、北条に見切りを着けたらしい。

「お預かりします。」

 そうか、頼む、と言うと三郎からの書簡に目を落とした。




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