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7 蒲原城攻防戦その3

 隼介は小具足姿で馬に乗って追手門を出た。副使を務める朝比奈が使者の印である白旗を持って並んでいる。この瞬間が最も危ない。白旗を意識せずに鉄砲を放つ輩がいる。

 使者に決まった時、三郎から馬で行け。と騎乗を許された。三郎がくれた馬は『クモ』と呼ばれており、隼介が世話をしていたので、素直に乗せてくれた。

 振り落とされないようにゆっくりゆっくりと敵陣に近づいて行く。下手くそな乗り手を馬が気遣ってくれている。

 敵陣に近づくと兵たちが一斉に槍を構えた。ドキッとしたが平気なふりをして大声を出した、「城代からの使者である。」

声、震えなかったよな、よかった。


 何用か!と問われ「御大将に城代北条氏信からの書簡をお持ちした。」と懐から書簡を取り出した。

 受け取った武士は「確かに受け取った。しばしお待ちいただきたい。」と陣中に戻って行った。

 待つ間、槍足軽達に囲まれ、身動きも取れないほどであったが、意外に落ち着いている自分に感心もしていた。目を武田の陣の前に置かれた矢弾避けの盾に向け、どうしたらこの盾を撃ち抜くことが出来るだろうか?とか、城を振り帰りこの城を落とすのは並大抵では無理だな、などと考えていると武士が戻ってきた。

 「御館様がお会いになる、ついて来られよ。」

 隼介と副使は敵陣の中を歩いて行く、周囲の兵の視線が痛い。こういう時にするのが、空威張りかと思いながら胸を張って歩いて行く。中々先陣を抜けずその厚さに感心したが、意外に鉄砲が少ないな、などと考えていると幔幕を張り巡らした本陣に着いた。


 促されて幕を潜り中に入った。

 正面に風林火山の旗を立て、左右に小姓を侍らし威風堂々と床几に座る髭面の武将がおり、その左右に10人ほどが座っている。

 正面の武将が武田信玄か、左右並ぶ武将も錚々たるものなのだろう。


 信玄に一番近い床几に座っている武将が、「北条の使者か?」「何用か?」低く腹に響く声である。

 「某、北条氏信の使者、北条氏英家中小鳥遊隼介と申す。書簡でお伝えした通り、こちらで、お預かりしている方の処遇について話し合いに参りました。」

 「その前に北条は貴様のような小童を使者にするとは、われらを愚弄しているのか?」

 今度は反対側から「北条はもはやこのような小童しか人がいなくなったんじゃないか?」周囲から嘲笑が聞こえる。

 隼介は淡々と

 「年を取っただけで学ばぬ者は年は若くても学ぶものには敵いますまい。」

「我らが学ばぬ馬鹿と言いたいのか!」激昂し、立ち上がって刀に手を置いた。

「私の使者としての資格を申しただけです。」

「やめよ。」信玄が初めて声を発した。「それで使者殿はどうしたい。」

「城中にお預かりしておりますのは諏訪四郎殿でございます。」

周りがざわめいた「生きていたか。」「よかった。」

 信玄が手を挙げると静まりかえった。

「それで四郎は何か言っているか?」

「四郎殿は早く死なせよ、これ以上恥をかかせるな。とおっしゃっておられます。」

「そうであろうの、帰って来て生き恥を晒すのは嫌であろう。」

「それでも、帰って頂き武田家を背負う義務のあるお方でございましょう。」

信玄は不思議そうに

「その方は、四郎と何か話したか?」

「色々と。」

「為政者として国人衆、領民のことを想い、共にやりたいこと成し遂げたいことがあるようでございました。」まるっきりの嘘ではないが、これは隼介が四郎に言ったことだ。

「さようか。四郎が帰りたいと言うなら貰い受けてもよい。それで、北条の要求は何だ。」

「甲斐まで引き揚げて頂きたい。」

「それだけか、一度甲斐に帰ってまた戻って来るかもしれんぞ。」

「構いません、その時はその時で楽しみでございます。」

ほう、自信があるようじゃな、暫く待て。と本陣の外で待たされることになった。

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