表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/108

73 隼介、困惑する

 屋敷に帰ると船が何時ものように玄関で出迎えていた。

「お帰りなさいませ。」

 大きなお腹を抱えて頭を下げるのをみて、「よい、よい」と声がでてしまった。

 船は笑いながら、

「ご心配していただきありがとうございます。」

 これ迄にも妊娠はしたが2度流産している。今度こそ、と大切に頑張ってきた。

「挨拶などよい、身体を愛え。」

「ありがとうございます、でももう大丈夫ですよ。おなかの中の子も元気一杯です。」

 一緒に居間に入り、船の助けで服を部屋着に着替えると女中が白湯を持って来た。

 船は「ヨイショ」と隣に座った。

 何故かいつも二人で縁側に並んで座り、白湯を飲みながらどちらともなく話し始める。

「旦那様、三郎様の御用とは楓のことでございましたか?」

 ふっと笑いが零れた隼介は、

「やはり、知っておったか?」

 船も笑顔で、

「それは、もう。」

 二人で笑い合うと、

「華様は、自分が育てる」と仰有っておられます。

 船の顔をまじまじと観る。

「楓はどうしている?」

 船は見返すと、クスッと笑い、

「この屋敷におります。私と産み月が重なりますので前後して生まれましょう、一人も二人も大して変わりませぬゆえ。」

 かなり違うと思うぞ。

「楓は何か申しておるか?」

「申し訳ないとばかり。子どもは華様のお子として育てると言いますとまた申し訳ないと。」

 楓は産褥が終われば再びお英様の許に戻します。お英様は楓を京の支店に送るようでございます。

「ほんとに三郎様には困ったもんだのう。」

 船が悪戯っぽい目をして、

「旦那様は大丈夫でございますか?加賀に一人の側室も置いておられないようですが?私に遠慮は要りませんよ?」

 おいおい、ちょっと怖いんですが、

「側室を置く時は船と相談する。」

「ご遠慮なさらず。」

 き、厳しくないですか?・・三郎様の火の粉が何で自分に降る?

「三郎様には、ちょっとお仕置きが効きすぎましたか?華様、お英様共にそろそろ許そうかと話していらっしゃるようですよ。」

 いやいや、三郎様のことより我が身のことが心配なんですが?

「そうか、三郎様も安心なさるだろう。」

 あ、そうだ。

「ところで船、来年の今ごろには加賀に連れて行ってやろう、金沢城は綺麗な城だぞ。街も美しく出来つつある。二人で歩こうか?」

「はい、お願いします。」


 翌日、御館に登城した隼介は、隼介のために用意された部屋にいた。次から次へと訪れる人がいて休む間も無いほどである。

 日が傾き、「さあ、帰ろう。」と思ったところに三郎からの呼び出しがあった。

 小姓を案内に長い廊下を奥に進み、三郎の居間の廊下に膝を突き、

「大和守、参りました。」と呼びかける。

 と、庭から「こっちだ。」と返答があった。

 隼介がそのまま身体を庭の方向に回すと、三郎は庭からやって来て横に腰かけた。

「二人が取り合ってくれんから面白うなくてな、鯉に餌をやっていた。」

 三郎のその口調がおかしくてつい笑みを零しながら、

「自業自得なんですから、もう少し大人しくしておくことです。」

 おっ、そうか。

「大人しくしておけば何とか成りそうか?」

 笑いながら隼介は、

「そのうち、奥方様からお赦しが出るでしょう。」

 よし、よし。


「ところで隼介、織田信長はどうなった?」

 現金な人だなぁ、でもこの切り替えの早さは見習わねば、

「明智、羽柴の手からは零れたようです。痕跡を辿ると美濃への山越えを目指したようですが。」

 より一層不審な顔をして、

「が、がとは何じゃ。」

 隼介は腕を組みながら、

「もうとっくに岐阜にたどり着いているはずですが、その気配がありません。」

「死んだか?」

「かも知れません。が、どちらの証拠もありません。」

 ふ、ふ~ん、

「それはそれで面白い。織田家中が岐阜中将(信忠)で纏まるのか、分裂するのか?楽しみじゃな。」

「そう上手くいきますか?」

 ほくそ笑みながら、

「で、織田家中の動きも知っておろう?」

「羽柴は岐阜中将殿でしょうが秀勝という手持ちの駒もございます、明智は読めませんが津田信澄殿を担ぐかも知れません。他にも信雄、信孝を担ぐ者も居るやも知れません。」

「で、誰に仕掛けるんじゃ?」

「何をでございますか?」

「まあ、良い。任す!」

 また、放り投げやがった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ