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70 信長、逃避行す

この和尚だれ?

 こちら側も簡単ではないな、5人で5人を切り伏せ死骸を道端の藪の中に隠した。

「力丸、大事ないか!」

 敵の槍が腿に刺さった森力丸を庇いながら奮戦した兄の蘭丸が問いかけた。

「不覚を取りました。大事ありません。」

 信長はその様子に

「無理をするな、暫く追っ手も有るまい。何処か宿を頼もう。」

 腰掛けて手当てをしている間に坊丸が走り回って、小さな寺を見つけてきた。

「上様、和尚に怪我人の手当てをしたいと申しますと快く受けて下さいました。」


 その寺は寺というのも烏滸がましいほど、小さくて貧相であった。

 寺門もなく境内らしき平地は草が繁り、その向こうに藁葺きの小さなお堂とやはり藁葺きの庫裏が見えた。

 庫裏に力丸を運びこむと和尚が薬草と水桶を持って来た。

「命を取る程とは思わぬが、ここで無理をするとわからんからな。」

 土間しかない庫裏に筵を敷いて寝かされ薬草を塗ってもらった力丸は、徐々に発熱し始めていた。

 蘭丸と坊丸が代わる代わる看病をしている。

 日が暮れ始めると和尚は、囲炉裏で雑炊を煮始めていた。

「たいしたもてなしも出来ぬが、少し腹に入れられるが良い。」

 木椀に注がれた薄い雑炊を啜った。

「和尚、ここで食って行けておるのか?」

 はっはっは、と笑った和尚は、

「村の人達の慈悲で何とか生きておる。ありがたいことじゃ。」

 信長は続けて、

「本堂を観たが無骨な仏像、あれは愛染明王かな?」

 ほぅ、おわかりか?

「わしが彫ったんじゃ。愛欲と戦いの仏じゃ、何故か心惹かれるんじゃな。」

「和尚は、元は武士であろう?それも名のある武士だな。」

 笑いながら、

「名など何にもならん。儂は儂じゃ。」

「そういうお主達も只者ではなかろう?」

 その瞬間、蘭丸と高橋虎松が片膝立ちで刀に手を掛けた。

「やめよ!和尚、この話これ迄にしよう。」


 小姓どもを制しながら、

「越前の状況はどうなっているか、噂など入って来ぬのか?」

「まあ、そのうち村の者が何か言うて来よう。」

 毎日、小姓たちは庫裏の裏にある畑を耕したり、山に罠を仕掛けてみたりしていた。鹿が捕れた時は大騒ぎて解体、調理と和尚を手伝い食事を楽しんだ。

 信長は本堂に籠り、目を閉じていた。

 力丸の熱が下がり、粥を食べられるようになると、小姓の一人高橋虎松が、

「峠を越え、岐阜へ行って参ります。」

 と言い出したが、信長は、

「慌てるな。今考えておる。」

 と取り合わなかった。


 10日もすれば、寺の備蓄が底を着いた。

「食べ物を喜捨してもらいに村へ行ってくる。」

 と頭陀袋を首から下げ山を降りていった。

「上様、危のうございます。追いかけて切り捨てましょうか?」

「大丈夫だ。ゆっくりと待っていよう。」

 信長は立ち上がると力丸の側に座り込み、

「どんな具合じゃ。」

 びっくりして起き上がろうとして、患部の痛みに顔を歪めながら、

「大丈夫です。もう動けます。」

 と起き上がろうとして、よろめき信長に支えられた。

「も、申し訳ございません!」

 力丸を座らせると、

「焦るな、お前の出番はまだ先じゃ。」


 昼を過ぎて和尚が戻ってきた、

「越前のこと少しわかった。」

 皆が和尚を見つめ口をつぐんだ、

「越前は上杉の支配になっておる。麓の村は境目の村だから新しいご支配様にこれから挨拶に行くと申しておった。」

「織田は、織田はどうなったんじゃ?」

 坊丸の口から、思わず零れた。

「上杉に大敗し木の芽峠まで引いたと聞いた。」

 そうか、急いだほうが良いか?いや、膿を出すのは今少し時間が必要かも知れん。

「和尚、この者の傷が今少し良くなるまで厄介になって良いか?」

「何も出んが、それで良ければ居ればよい。」

 越えれば美濃の油坂峠はすぐそこにあった。

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