68 越前、また争乱
民衆を引き連れ、府中城に帰った七里頼周は腹を決めていた。
持てる兵の全てを集め、福井へ攻め上る準備を始めた。
本願寺宛て、上杉宛てに今回の顛末を書き送った。
「福井御坊の圧政に民衆は耐えられず、見る見かねて立つ。」と記した。続けて、本願寺、上杉に逆らうものではなく、本願寺への務めはこれまで通り果たす。と続けていた。
越前府中を発った七里の軍勢は、行く先々で民衆を加え福井を望む頃には万余の軍となっていた。
福井御坊は、寺門を堅く閉ざし本願寺、上杉に織田にも救援要請を出した。
どちらからも救援要請を受けた本願寺は、それぞれに使者を送るに留まった。他人事であったのかも知れない。
上杉は、加賀にいる隼介が既に2万の兵、若狭の斉藤朝信が敦賀に8千の兵を集めていた。その他に垪和又太郎が水軍を敦賀に入れた。
これで済めば話は単純であったかも知れない。
しかし、織田が急速に動いた。信長は福井御坊からの救援要請を受けるとすぐに動かせる秀吉の5千と光秀の7千に出陣を命じた。
自らも手勢5百を率いて安土を発った。
先鋒を命じられた秀吉はその場で陣太鼓を打たせ自らは長浜城から山本山城にそして木之本へと馬を急がせ軍勢が集まるのを待った。3千が集まったところで越前に向け発した。翌日、一気に木ノ芽城を抜いた。
「あの時はこの城を落とすなど考えられなかった。」
城内を歩きながら過去を思い起こしていた。
一晩木ノ芽城で過ごし、次の日にはあっという間に山を下り越前領内の燧城に至った。
この一報を受けた七里は、慌てて兵を府中へと返そうとした。
しかし烏合の衆である七里勢は命令系統がそもそもないに等しく陣中で混乱をきたした。
そこに御坊から僧兵が突出し七里勢は散々に打ち負かされた。本願寺の僧兵が門徒を討つという仏には到底見せられぬ光景が現出した。
七里自身は旗本数十騎と府中の街へと這々の体で辿り着いた。
府中の街は、荷物を担いで逃げ出す者達でごった返していた。
すぐ近くを通り過ぎようとする親子連れに
「何処へ行くつもりだ?」
ビックリした表情の中年の男が、
「すぐそこまで織田軍が来ているんです。織田軍が来たら皆殺しになります。加賀に行けば上杉様が助けてくださるそうです。」
そうか、そういう噂が広まっているのか。
「気をつけていけ!」
城内には、まだ3百ほどの兵が残っていた。
「これでは戦えぬな。城に火をつけて退去する。我等は敦賀を目指す!」
兵たちは建物に藁やら柴やら積み重ね火をつけて回った。
府中城は天守があるわけでは無いが、七里が丹精込めて造り上げてきた城である。城から退去した部隊の中で七里は物見櫓が炎に包まれやがて焼け落ちるのを街外れから眺めながら、
「これも栄華の夢の跡か・・いや、また必ず戻ってくるぞ!」
燧城にあって府中の街を望んでいた秀吉の目に火災の煙が目に入ってきた。
「官兵衛!あれは府中城ではないか!」
じっと同じ方角を見つめながら、
「そのようでございますな。」
焼けてしもうたか!
「仕様がございませんな。」
府中城に入った羽柴軍は、焼け残った建屋に本陣を据え応急に修理を行なった。
本丸跡に仮御殿を建てる手配を終えると福井に向かって進発した。
5千の兵が福井の街に乱入した。そこにいた門徒は、味方だと思った織田軍が鬼の形相で門徒を撫斬りにするのを横目で見ながらなすすべもなく逃げ出した。
中には気がつくと周りが羽柴軍ばかりになっていて、逃げ遅れたと思い知った者達は命乞いをするか、羽柴軍に刀を振り上げて向かって行った。
街での凄惨な惨殺劇が終わりに近づくと福井御坊の寺門前に羽柴軍が集まった。
御坊からの使者が寺門の前で斬り捨てられた。
それで、織田軍の覚悟を知った。
寺門への激烈な攻撃が始まった。兵の損耗を厭わない攻撃が昼夜に渡り続いた。
2日目の昼前、明智軍が到着した。
「上様の命により、この場所を代わります。羽柴殿は加賀との境に進出し上杉に備えて下さい。」
「後一歩で寺門を破れる。が、日向守が代わってくれるなら喜んで譲ろう。」
二人は目は「分かっておろうな。」「分かっておる。」と語っていた。