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67 越前、動揺する

 越前府中城を預かる七里頼周は現状を憂い、そして不満を高めていた。

 この時、越前は福井御坊に本願寺から派遣された下間頼義が君臨し統治していた。御坊内でも派閥があり、このまま本願寺と共に進むべきだ。という者たちも入れば、大坂は大阪、越前は越前と独立してもよいのではないかと考える者たちもいた。

 この独立派には上杉と今以上に連携すべきと考える者も少なからずいた。

 大坂本願寺は支配区域内に住む者の数に比べ米の収量が少なく慢性的に兵糧が不足しており、越前の年貢米を頼りにしていた。

 越前はこの負担に加えて福井御坊の贅沢な生活を支えるため年貢を7公3民に上げた。領民は燐国とのあまりの差に落胆するもの、諦める者そして怒れる者が生じた。

 それを見ていた七里頼周は、加賀金沢城に駆け込んだ。


 この時、加賀金沢城を預かっているのは直江大和守長綱である。

「直江殿、何とかしてくだされ。越前の領民を救って下され!」

 そう慌てずにと白湯を勧めながら、

「加賀に逃げ込んでくる流民が多くなりました。越前では暮らせぬと言っております。」

 七里は白湯を一気に飲み干し、

「左様です。御坊の者達はこのままでは早晩立ち行かなくなる事が分かっておらぬのです。」

 隼介は笑顔を向けると、

「一度、大坂に使者を送ってみましょう。」

 ありがとうございます。

 もう一杯と自ら白湯を勧めながら、

「ところで七里殿の所領は如何ほどでしたかな?」

 へっ、と意表を突かれたが、

「3万石ほど預かっております。」

 隼介はわざとらしく驚いた表情で、

「あなたほどの功労者が3万石ですか・・上杉家なら10倍でもおかしくないと思いますのに。」

 あっ、これは失礼なことを申しました、お忘れください。


 越前への帰路、福井御坊を観ながらこの豪華さは身を滅ぼすであろうなと独り言ちながら通り過ぎた。

 10倍か・・話半分にしても15万石、儂にはその位の価値が有るであろう、当然そう有るべきよな!

 福井の街を出ようとした時、汚れた法衣を纏った僧侶と彼が連れた1百程の民衆に呼び止められた。

「加賀大将ではござませんか?」

 七里の周りにわらわらと集まって来た。

 加賀大将様、我らをお救い下さい。

 加賀大将様!加賀大将様!

 集まった民衆は口々に七里の別名を叫び、期待の目で見つめた。

 まぁ、まぁ、落ち着け!

 先頭の僧侶に

「わが屋敷に来るが良い。」

 と言うと、ぞろぞろと民衆を従え寄るつもりがなかった福井の屋敷へと踵を返した。

「我ら門徒は先の戦で加賀より豊穣なこの越前の地を得ました、確かに物成りは加賀より良いのですが、何せ年貢が上がり生活が苦しくなるどころか飢えてしまうというところまで来ております、加賀に残った者の話を聞くと田畝を改善し物成りが良くなった上に年貢が安くなったそうです。教えを棄てても加賀に戻ろうとする者が後を絶ちません、我ら僧侶も御坊の贅沢三昧を見ると止めることも出来ません。」

 僧侶の隣にいた比較的真っ当な姿をした中年の領民が、

「加賀では歓迎され上杉の領国内に土地を貰えるのです。加賀に渡れば幸福に成れると噂になっております。このままでは、越前に人は居なくなります。」

 加賀か・・

「加賀を支配する直江殿は上杉の頭脳で特に内政上手と聞く。やはり物成りは違うか?」

「2割から3割違うと言います。激しいところでは2倍になったという田もあるそうでございます。それに漁師も良い思いができるとか。」

 何処までホントなのか?噂が噂を呼んでいるようにも思えるが・・

「御坊にも考えもらわえばならんな。」

「私たちとしては七里様に上に立って頂きたいのです。」

 ・・

「簡単に言うてくれるな。」

「簡単ではございません。命懸けでございます!」

 七里は、僧侶達の勢いに気圧されていた。

 しばし、考える間が欲しい・・

「わかった!わかったゆえ、暫く大人しくしておれ、儂は府中に帰り支度いたす。」

「我らもお連れください。何処にも行く宛のない者共でございます。」

 仕方ないか・・

「では、ついて参れ。」

 七里が、府中に帰り着くまでに付いてくる民衆は雪だるま式に増えていった。

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