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6 蒲原城攻防戦その2

 戦には勝ったはずだった。ところが再び、蒲原城は囲まれていた。


 3日前、城の北側の山中で武田の1部隊を壊滅させ、副将を切り、大将を生け捕りにした。

 三郎率いる2百の兵は、城から煙が上がるのを見ると山の中を城に向かって動き始めた。城の方からバラバラと逃げてくる武田兵を追い払いながら三郎は槍を持って「よし、上手く行ったようだな。」その時、前に出ていた隼介は敵の本陣がこちらに向かって来るのを視認した。隼介の合図に三郎は采配を振り下ろしながら「かかれー!」と雄叫び、先頭に立って駆け出した。兵たちは鬨の声を揚げながら続いた。


 武田の本陣にいた兵たちは、闘うより逃げることを選んだ。最早、一方的な闘いとなっていた。武田の大将は刀を抜き小姓1人を従えて歯向かってきた。

 三郎は一撃で小姓を倒し、敵の大将に槍を向け、

「名を聞いておこうか?」

「いらぬことよ。」と刀で突いてきた。

三郎は槍の穂先でそれを払うと、そのまま横に薙いだ。

 そのまま、2合3合と斬り結んでいる。周囲には北条兵が集まって来ていた。2人が切り結ぶたび2人の位置が微妙に動いていく。

 その時、隼介の目の前に敵の大将の背中があった。無意識に持っている槍を横に薙ぐと「バキッ」槍が敵の大将の兜を支点にして真っ二つに折れた。

えっ、何。自分の行為にあ然とした。

そしてそれは横向きに落ちるようにゆっくりと倒れた。

「隼介、でかした。」と言うやいなや三郎が叫んだ。

「武田の大将を討ち取ったぞ!」

その声で、周囲の北条兵から「オー!」と歓声が上がった。

歓声は城まで伝播し、追手門で闘う者達にまで伝わった。

 側にいた兵が、敵の大将の首を取ろうとして「まだ息があるようです。」脳震盪を起こしただけのようだ。

 三郎が「城に運べ」というと北条軍は残党を狩りながら城に入った。


 長順は、城で留守居番をしていた。

「三郎殿の作戦が上手く嵌まりました。」と城内での出来事を話し始めた。

 まず兵たちを町人に偽装して城に入れました。これで兵の数が3千になりました。武田軍は一旦この城を囲みますが、すぐに薩埵峠に向かう振りをして城兵を誘き出そうとしました。

 兄上(氏信)は激怒する振りをしてこれを追撃しました。必ず敵に内通する者が出ると見ておりましたが、案の定でございました。この者を泳がせ、搦手門近くの物置に放火したところで捕らえました。

 先に町人に扮装させて入れていた兵たちを搦手門に集め、用意していた柵を動かし急造の桝形を作りました。内通したものから聞き出した合図で敵を誘い込み・・という手順でございました。

 兄上も無事帰還できたようで、ほぼ完璧な作戦でございました。

 追手で戦闘した城兵も、そのほとんどが帰還した。完勝であった。


 しかし、その3日後、再び蒲原城は万余の武田軍に囲まれた。前回と違うのは武田の本陣に風林火山の旗がたなびいていることだ。


 三郎たちが加わり蒲原城守備兵は3千を少し超える。この城の守備の人数としては十分のはずだ。

 やがて法螺貝が鳴り、太鼓を打ちながら武田軍の総攻撃が始まった。地鳴りがするように盾を並べ城に迫って来る。まさに怒涛というべき攻撃である。

 北側搦手門付近が主戦場になった。武田軍は大堀切の手前まで迫り、弓を主力に攻め立ててくる、大堀切の向こうに櫓を組み斜め上から鉄砲で撃ってくる。城からも鉄砲と弓で迎え撃つが竹束の盾に防がれ効果が薄い。日暮れまで続いた波状攻撃を何とか凌ぎ、今日は辛うじて守った。

 盾や塀に寄りかかり兵たちが、休息を取ることができたのは日が暮れてからだった。


 「隼介!何処におる!」三郎が呼ぶと小姓が「捕虜のところに行ってくると申しておりました。」

そういえば、そのようなものがおったな、忘れていたものを思い出すようにつぶやいた。


 隼介は、牢の前に座り込んだ。格子を挟んで男が目を閉じて座っている。

 隼介が「諏訪四郎殿でございますね。」

「知らんな、そんな名前は。こんな名もなき武人を何時まで生かしておく気か?」

「では、名もなき武人殿、これより諏訪四郎勝頼殿になって頂きます。生きていただきます。我らとあなたの為にも。」

「諏訪四郎殿はやがて武田家を継がれるお方、このようなところで果てるは大いに心残りでございましょう?」

「これも武家の定めじゃ。」

「生かしてお返しいたしますよ、共に明日を見てみませんか?」

「ふんっ。」

「あなたも為政者となられましょう。我が主君北条氏英は領民に明日の希望を持たせねばならないと常に言っております。」

「あなたも甲斐の民のため明日を語りませんか?」

勝頼は、静かに目を開けると

「明日か、儂に明日はないのだ。ふざけたことを言うな。最早、儂には武田に帰る場所はない。」

「そうでもないと思いますよ。あなた以外に次の棟梁になれる人はいないでしょう。」

「弟がおる。」

「武田のお館様や国人衆はあなたに期待していると思いますが。」

「ふんっ。どうせ儂は囚人だ、好きにせよ。」

一度閉じた目を再び開け

「その方、名は何という?」

「北条氏英が家来、小鳥遊隼介と申します。」


 その日の夕刻、武田軍の攻撃を凌いだのち、広間に氏信、長順、三郎が集まった。

 城代である氏信が、「皆ご苦労である。三郎から話しがある。」

「隼介からお話しいたします。」

下げた頭を上げ

「先日捉えた将ですが、諏訪四郎殿と思われます。」

「本人が認めたか?」

「いえ、ですが間違いないと思われます。」

氏信が拳を握り

「では、切り捨てて首を追手門に晒すか?」

「いえ、身柄を条件に武田軍には甲斐に引き上げてもらいます。」

「そのようなことが出来るのか?」

「自分が交渉に参ります。」

「1人で往くつもりか?」

「いえ、この若造が1人で行っても取り合ってもらえないでしょう、どなたか付いてきて頂ければ助かります。」



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