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63 秀吉、苦しむ

 秀吉は、木ノ芽城、観音丸城を放棄し、一向衆の遺体を弔ってから長浜に帰った。

 秀吉の目に飛び込んできたのは、町衆が率先して焼け落ちた

 天守閣をはじめ数棟の建物の片付けを行っている風景であった。領民とはありがたいものじゃ、城の修築さえ自ら手を汚してくれる。

 人質になった女性3人は、上杉軍の行軍を遅らせようとわがまま放題を言い度々行軍を停めさせ上杉軍の大将を困らせたことを自慢気に話した。それでも上杉軍での待遇は良く無碍に扱われることはなかったことなどを秀吉に喧しいほど喋った。

 長浜城に帰り着いた日の夕餉は秀吉に取り感無量のものであった。

 一族揃った場で秀吉は涙を流したという。

 その夜、居間に官兵衛を呼ぶと誰も近づけずに夜が更けるまで話し合いが続いた。


 信長が安土城に帰還した。

 岐阜中将らは、信長に遅れること半月、雨中に陣を払った後順調に行軍し岐阜に入っていた。

 大溝城の津田信澄は、若狭を睨み防衛体制を整えていた。

 秀吉は、山崎の陣を弟秀長に預けていた。優秀な弟は固く陣を守り毛利を寄せ付けなかった。


 信長は旗下の諸将に召集をかけた。

 安土城大広間で、諸将を前に信長は横を向いて何も喋らない。

 脇に控えていた小姓の森蘭丸が、

「上様はお悲しみです。本願寺に証人になっているお二方の生命がどうなるかとご心配なのです。」

 秀吉は胃がキリキリと痛むのを我慢し、ガバっとひれ伏して、

「申し訳ありません、この筑前の至らなさのため上様にご迷惑をおかけしてしまいました!この皺腹かっさいばいてお詫びいたします!」

 信長は表情を変えない、じっとこちらを睨んだまま。

 また蘭丸が横から、

「筑前守殿の腹など要らぬと仰せです。」

 床に額をこすりつけながら、

「では、どのように致せば・・」

 返事は無かった、どれ程の時間が過ぎただろう、肩を叩かれ、はっと緊張すると、

「筑前守殿、上様は席を立たれましたぞ。」

 と明智光秀が教えてくれた。


 皆が帰った後も一人秀吉は大広間に残っていた。

 夕闇が迫り、広間の半分は既に暗くなり、残りも夕焼け色に染まっている。

 森蘭丸が来て、秀吉の側に座ると

「上様は、上様はいかが思し召しであろうか?」

 必死の形相で問いかけ、続けて、

「某は隠居し秀勝殿に家督を譲ります。そしてもし許されるなら尾張中村に帰り田畑を耕して過ごしたいとおもいます。」

 秀勝は信長の4男で秀吉が乞うて養子にしていた。

「筑前守様、上様はそのどちらもお認めになられません。今は本願寺対策を考えておられます。筑前守様が必ず必要になりましょう、それまで屋敷で自重されてはいかがでしょうか?」

 左様ですか、

「どうか上様にお取りなしをお願い致します。」

 森蘭丸はこちらを笑顔で見て

「筑前守様は上様に必要な方です、大丈夫です。」

 秀吉は蘭丸に向かい、深々と頭を下げて

「どうぞよしなにお願い致します。」


 安土城の大手道にある羽柴屋敷に帰った秀吉は居間で官兵衛と密談をしていた。

「殿、うまくいったようでございますな。」

 白湯を口に運びながら、

「当たり前じゃ、信長が儂を殺せぬことぐらい考えれば分かるからの。」

 それにしても、

「佐久間様は平気な顔をして座っておられた。自分の罪を分かっておられぬようであったぞ。」

 左様ですか、

「佐久間様は、織田が尾張半国であった頃は局地戦で活躍された様でございますが、織田が天下を目の前にした今となっては周りの見えぬ猪武者でしかありませんからな。まもなく粛清があるかも知れません。」

「暫くは大人しくしておきましょう。必ずや好機が参ります、それまでの辛抱でございますぞ。」


 一方、安土城の天主にある信長の居間では、

「上様、筑前守様の後悔は本物と見受けました。百姓に戻りたいと申しておりました。」

 信長は沈む夕陽を眺めながら、

「左様か?」

 本願寺を片付けねばならん、信包、信孝の敵討ちじゃ。秀吉の阿呆のせいで本願寺に証人に入っていた両人は磔にされたともいうし、まだ牢の中で生きているともいう。本願寺も秀吉も決して赦さぬ。



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