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62 秀吉、嵌められる

 越前と近江国境木ノ芽峠の左右に一対の城がある。木ノ芽城と観音丸城と呼ばれている。

 斉藤朝信はここに入り、羽柴軍と向かい合っている。

 昨日から人質なのか賓客なのか分からぬお三方に振り回されながらではあったが。

 小姓が、「殿様!」

 また、何か言うてきたか?といやな顔をすると小姓は笑顔で、

「直江大和守様ご到着です。」

 つい、笑顔になってしまった。

「わかった。」

 広間まで、思わず足が早足になっていた。

「待ちかねたぞ!」

 隼介はおもむろに頭を下げて、

「お待たせいたしました。見事に羽柴を釣り出されましたな。お見事にございます。」

 褒められて悪い気はしなかったが、

「儂はこのような小細工はすかん!武士の名折れじゃ。」

 隼介は再び頭を下げて、

「いやなお役目を押し付けて申し訳ありません、全ては某の企み。皆にもそう言うております。どうか、ご容赦下さい。」

 こめかみを搔きながら、

「そちがそこまで言うならば何も言うまい、ところで我が軍はこのままここを離れて良いのか?」

 隼介はその澄んだ目を向け、

「両城に1千づつ残してくだされ。予定どおり斉藤様は敦賀にお進み下さい。」

「わかった、後を頼む。」

 と立ち上がりかけたが

「一つ言うておくが、人質のお三方、強者につき気を付けられよ。」


 斉藤軍が敦賀へ去ると同時に近江側から羽柴勢5千が物見櫓の視界に入って来た。

 こちらは2つの城で2千、まあ、負ける戦いではない。それに、越前一向衆2千も入城させていた。


 城近くに陣取った羽柴勢から白旗を掲げて使者が出てきた。

「城内の方に申し上げる!闘う意志はあり申さぬ!人質をお返しいただけぬか?」

 鉄砲が一発、ダーンと城内から放たれた。

 使者は慌てて馬首を帰した。


 秀吉勢は半包囲の態勢を敷くと夜営の準備を始めた。

 夜も更け、丑時になった頃

 観音丸城の虎口からバラバラと兵が出て来て、羽柴勢に向け鉄砲を斉射した。

 羽柴勢が驚くかと思いきや、逆に突撃をしてきた。

 城外に出ていた兵たちは慌てた。敵を慌てさせ追い落とすつもりが逆になった。

「城に戻れ!」と我先に虎口に殺到した。

 羽柴勢は付け入った。引く敵と一緒に虎口に飛び込んだ。城方は引く兵を見捨てられず門を閉められなかった。秀吉子飼いの荒くれ者達は虎口から先も先陣争いを続けて本丸に到達した。

「上杉軍も大したことないのう!我等の方が上手じゃ!」

 と誰かが叫ぶと、おぉ!と喚声が轟いた。


 それより少し前、木ノ芽城内では、人質を前にして、隼介が

「まもなく、筑前守殿が迎えに参られます。ここが一番安全です、それまでここで大人しく待って下さい。」

 と言うと去って行った。


「殿、観音丸城を落としました!城内を探させております。」

 そうか、

「木ノ芽城の監視を厳重にせよ!誰も出すな!」

 黒田官兵衛が走り込んで来るなり、

「殿、不味うございます!罠です!」

 いかが致した?

「城内を見聞いたしました処、敵の死者は一向衆でございます。散らばっております旗も一向門徒のもの、上杉に嵌められました。」

 どういう事じゃ?

「此処は、越前でございます、越前に攻め入り一向門徒を殺し、その城を奪った。明らかに和約破りでございます。」

 そうか、嵌められたか・・で、母者はどこにおる?

「おそらくはもう一つの城に、そしてその城はすでにもぬけの殻でございましょう。」

 秀吉は、遠く近江の方向を見つめながら、

「官兵衛、腹を決めねばならんか?」

 官兵衛は、秀吉の青ざめた顔を凝視しながら、

「暫くは隠忍自重でございますぞ、時が来れば某が支度をいたします。その時まで我慢くださいませ。」

 官兵衛は木ノ芽城に兵を突入させた。案の定、城はもぬけの殻で、3人は奥まった座敷で子どもたちは二ノ曲輪で発見された。


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