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60 秀吉、おねを追う

 途方に暮れた秀吉を横目で見ながら、黒田官兵衛はおかしい、何故長浜城なのだ?大溝城ならばわからんでもないが。

 それとも、北近江を維持する戦力、兵站が上杉にあるのか?

「殿、大物見を出しましょう。上杉軍の力を見てみませんと策も立てられません。」

 秀吉は、聞いているのか、いないのか

「任せる。」とひと言。

 官兵衛もため息をつき、

「では、私が行って参ります。殿は後からお出で下さい。」

 まっ、秀吉様のことじゃ。直ぐに立ち直っていい知恵をひねり出してくれるじゃろ。そうあってくれねば困る。

 官兵衛は、1千の兵を率いて長浜に向かった。安土を通過し佐和山城に達する頃には、少しずつ状況が分かって来た。

 上杉軍は天野川は越えていない。つまり中山道は微妙にまだ織田方で、岐阜までの道は確保されている。

 全くわからん!

 一気に関ヶ原迄行き、ここを封鎖すべきだと思うのだが?


 長浜城が燃えております。

 脇に控えていた小姓が声を出した。

 思わず、空を見ると長浜城の方角から煙が立ち上っていた。

 せっかく造った城を・・

 城を焼いたということは、引き揚げたということか?

「今から長浜城目指す。」と令すると戦闘態勢で用心深く動き始めた。

 夕刻、長浜の街が見えて来た。

 長浜城の天守が焼け落ちて失くなっているのが一目瞭然であった。しかし、街も城の他の矢倉も燃えていなかった。

「良かった、不幸中の幸いだ。殿に知らせよ!」

 官兵衛は、兵を二つに分けるとその一方を率いて急ぎ追手門を潜った。追手門を入った桝形に、打掛が3枚掛けられており、それぞれに、『なか』『おね』『とも』と立て札が立っていた。

 悪辣な・・

 人質と言うことか?

 その時、三ノ丸に入った者から

「まだ、火が消えておりません。風に煽られると広がりそうです!」

 なに!

「直ちに消火に当たれ!外の者どもも城内に入れよ!」

 官兵衛が消火に駆け回っていた頃、秀吉は天野川の手前で夜営の準備をしていた。

 そこに、長浜城の様子が報告された。

「なにぃ!母者やかかの打掛が晒されていただと!おのれ上杉!」

 このまま、長浜城まで進軍する。と宣言すると、先頭を切って川を渡り始めた。


 秀吉は夜半に長浜城に入った。

 出迎えた官兵衛に向かって、

「人質を取り返しにいくぞ!」

 殿、母上様、奥方様らは北国街道を越前へ連れ去られたようです。

「全軍に飯を食わせよ!一刻後に出る!」

 官兵衛は、慌てて、

「お待ちください。越前に入るは本願寺との和約破りになりかねません。ここはご自重を。」

 官兵衛、

「考えてみよ。上杉は越前を通って来た、上杉が和約破りにならずに我が方だけがなるのか?」

 しかし、

「相手は本願寺でございます。何の因縁を付けられるか分かりません。ここは上様の御裁可を頂くべきかと!」

 ううむ・・秀吉が考え込んだところに、

 木之本宿から使番でございます。

 町の若衆らしき者が、両手を付き這いつくばっていた。

 小姓が、今一度申せ!

「町の構えに3人分の履物が置かれております。それに紙が添えられておりました。」

 小姓が3枚の紙を差し出した。

「なか」「おね」「とも」

 どの紙にも名前が書かれていた。

「おのれ!上杉!絶対に赦さぬ!」

 官兵衛、直ぐに追いかけるぞ!

 もう、止まらんな・・

 仕方ないか・・よし、

 まず、木之本宿の若衆に

「上杉軍はどれ程前に去った?」

 ええっと。

「確か、午の刻は過ぎておりました。」

 うむ、半日の遅れか?

 若衆が恐る恐る

「褒美は・・」

 官兵衛が銭を握らせるとそそくさと去って行った。


 本当に卑怯よな、儂がその片棒を担ぐことになろうとは、あぁ、いやじゃ、いやじゃ。これで上手く行かねば大和守の首へし折ってくれるわ!やはり華々しい戦がしたいのう、越後の鍾馗こと斉藤朝信は、木ノ芽城内で独りごちていた。

 日が落ち辺りが暗く始めると小姓が燭台を持って来た。

「お三方に不自由はないか?」

 はっ、

「肝が座っていらっしゃいます。先程から3人で酒盛りをしておられます。」

 はははっ、そうか。

「それで、御大将を呼んでこいと仰られています。」

 はははっ、はぁあ、儂をか?

「一緒に飲もうと仰せられております。」

 全く、なんという役目だ、大和守に恨み言のひとつふたつ、いや百も言わねば割に合わん。

 そう言いつつ、お三方の接待に重い腰を上げた。







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