54 上杉軍、岡崎へ
諏訪原城を落とした武田軍は他の砦の攻略を始めた。北条軍は自ら申し出て掛川城の攻略に向った。
城下を焼き、城を裸にしてから囲んだ。
城からは2度ほど、攻撃隊が出て攻囲する北条軍に誘いをかけてきた。
城に戻るときに付け入ろうとしたが、攻撃隊の殿と城兵の連携が見事で付け入る事は出来なかった。攻撃隊は岡崎三郎信康が指揮していた。
「兄上、中々の戦上手のようです。」
そうよな、
「まだ、二十歳と言うではないか、末恐ろしいな。」
そうして、また攻囲が続いた。
伊豆から、宗哲の使いとして2男長順がやってきた。
「父からの書簡です。」
ご苦労であったな。ゆっくりせよ。
読んだ書簡を氏規に手渡しながら、
「宗哲様は、深いのう。とても手が届かぬわ。」
長順、
「上手くいくか、見届けて行け。」
掛川城内では、
「数正、このままでは尻つぼみじゃ。父上は何時やって来るかの?」
若殿、
「ここで、この話をするのが適当か分かりません。が、いつか話さねばならぬことです。お聞きくださいますか?」
何だ、深刻な顔をして。
「浜松からの援軍はない、とお考え下さい。」
どういう事だ?
「浜松を出る前に殿に呼ばれました。その場で、若殿を逃がしたい。」と相談されました。
「若殿が徳川に残っておられると殿が織田様の手前、殺さざるを得なくなります。」
訳のわからんことを言うな!
「儂は徳川のため、織田のために懸命に尽くしてきたぞ、それを何故?」
「徳川が、武田と連絡を取り続けていたことが織田様に知られました。」
それがどうした?
「殿は築山殿が勝手にやったことと言い訳しようとしましたが、若殿も同心ということになってしまいました。」
儂が舅殿(信長)に直接説明する。
「なりません。実はその動きに岡崎衆が乗り、若殿を担いで岡崎だけで武田と結ぼうとしたのです。」
何!何故儂に言わん!
「全ては遅きに失しました。」
・・
「殿は若殿を何とか守りたいと思い、この掛川城に入れたのです。」
・・
「囲んでいるのは武田でなく北条です。殿と北条の氏規様は幼き頃、駿府で人質として顔見知りです。その伝手を頼って北条へ若殿を逃がそうとしているのです。」
そのようなことをすれば、父上が舅殿に言い訳が立つまい?
「今回は、千載一遇でございます。織田様の敵は北条、武田だけでなく上杉、毛利とございます。今、徳川を切ることは出来ません。その内、御家に戻ることも叶いましょう。某もどこまでもお供いたします。」
信康は放心したように、
・・わか・っ・た。数正に任す。
その夜、信康は浴びるほど酒を呑んだ。
次の朝、兵たちのの怒声で目が覚めた、二日酔いの頭を持ち上げ、近習を呼んだ。
石川はおるか?
「ただいま、追手門付近で防備の指揮を執っております。」
そうか、
「敵は総掛かりか?」
総掛かりで有って欲しい、そうすればここが死に場所になる。
「さほどではないようです。」
・・そうか。二日酔いの頭が痛くなり、ゴロッと大の字になった。
掛川城では毎日、毎日北条軍が攻め寄せる。城兵はそれを跳ね返し続ける。それが、10日間も続いたある日、浜松城の家康の許に岡崎城が上杉軍の襲撃を受けたと連絡が入った。
上杉軍が北から岡崎城に取り着いたとき、岡崎城では、本丸に池田恒興がいて、岡崎衆は三の丸曲輪にいた。
上杉軍が目の前に見えたとき、三ノ丸の追手門が開き、城兵が突出した。
飛龍の馬標を目指し、ひたすら突進した。
そこに引き金が鳴った。
本丸で、上杉軍を見ていた織田軍は、岡崎衆の突然の行動に狼狽し引き金を打たした。
突出した岡崎衆は混乱した。城に引き返すもの、そのまま突撃を続ける者と混乱した。
三郎は、戦況を見ていたが引き金が打たれた瞬間、采配を振り上杉軍は、岡崎城追手門に向け殺到した。
城兵は、敵味方入り乱れているため、鉄砲を放つこともできず、追手門を閉じる機会も失ってしまっていた。
上杉軍先鋒の柿崎軍は、三ノ丸に突入し、殺戮の限りを尽くした。柿崎軍は、三ノ丸から二ノ丸へ駆け上がった。
三郎は、先鋒が城に突入したのを確認すると、本陣を前に進め本丸への攻勢の指揮を執り始めた。一方方向を明けて攻撃を始めた。
やがて、本丸からの抵抗が弱まると本丸に座っていた織田軍が東に向かい城を退去し始めていた。
殿に上杉軍先鋒が喰い付いた。
殿部隊はそれなりに頑張ったが、あっという間に柿崎軍に破られた。上杉軍は織田軍を追撃し、逃げる織田軍を蹂躙した。
「隼介、上手くやったな。」
「はまりました。しかし、岡崎衆には気の毒をしました。」
そうだな、
「彼等の主君を守るために生命を投げ出したのだ、無駄には出来まいな。」
これで、
「織田も徳川も少しは慌てましょう。徳川が掛川城を見捨ててもおかしくはないでしょう。」
御館様、
「この後、どうされます?」
そんな事決まっておろう。
「帰るのさ。」