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幕間1 又太郎

次の展開までに書ききれなかった話を少しさせて下さい。

 父から三郎様について越後へ行けと言われた時、

あぁ、やっぱり自分は必要ないんだ。

そう痛烈に思った。

 長男では有るが嫡男ではない。それほど大きくはない家に側室腹は要らないんだ。体のいい厄介払いだな、しかも、みんなが噂している、殺されに行くんだと。垪和家で要らなくなったぼんくらが人身御供だと。

 ほとんど不貞腐れながら、越後にやってきた。


 日々は勝手に過ぎていく。

 越山。逆に越後から関東へ向っていた。

 上野国沼田城にたどり着き、三国峠からみた関東を思い出しながら、自分はこれから、どうなる。どうする。と考えていると、

 「いいか?」と三郎様がやって来た。

そして、いきなり、

「又太郎、船は得意か?」

えっ、

「小さい頃より小舟で遊んでおりましたゆえ、特に苦手ではありません。」

よし、

「そちに水軍を創って貰おう。」

「水軍でございますか?」

人差し指を口に当てながら、大きな声では言えんが、

「佐渡を獲りに行く、佐渡のこと全て任せるからな、強い水軍を創ってくれ。金は湯水のようにあるぞ、それもそちに任す。」

何なんだ、訳がわからん?

ホント、言葉の足らん人だなぁ。


 悩んでも仕様がない。

 面白くはないが隼介に教えてもらうか。

城で道中よりはまともな夕餉の終わりに、

「隼介、後で話がある。いいか?」と誘うと

隼介は嬉しそうに頷いた。

 儂がお主ごときに気を許したとでも思ったか?

ふん、農民の小倅が。

三郎様に優遇される隼介のことが面白くなかった。

どうしても隼介が自分と同等であるのが納得出来なかった。

儂は北条家の最も古い家臣、垪和家の者だ。


 隼介は訳知り顔で語った。

 我等は越後で生き残るため、先ず佐渡の鶴子銀山を手に入れる。佐渡は石高こそ1万石ちょっとだか銀が出る。ここを三郎様の拠点にする。佐渡は島だから水軍を創るのも格好な場所、上杉に新しい闘い方を入れる事ができる。我等が上杉に必要であることを皆にわかって貰う。

それが、生き残る道であると言う。


 つまり、我等の生命は儂の腕にかかっているということか、そこまで信用して貰えたのか。

 その後、隼介は佐渡攻略の策を話した。こやつ、元々侍じゃないから卑怯な手も平気で使う。

それでは、

「騙し打ち同然じゃないか。そのような勝ち方では、後々味方がついてこんのじやないか?」

かもしれません、

「戦は勝たねばなりません。それも味方の損害が少なければ少ない程良いと考えます。それに、この策は私が立てたものです。皆様は何もご存じなかった。」ということです。


 悪役は自分で被るということか?それで良いのか?

「隼介、それで良いのか?お前にも背負っている家が有るであろう?お前ばかりか家も憎まれる事になりかねんぞ。」

「仕方ありません。自分も家を背負うつもりは無かったのですが・・全ては、三郎様の天下取りにためです。」

そこまでの覚悟か、武士でもないものが。

「又太郎様も私を庇う必要はありません、又太郎様は又太郎の忠義をお願いします。」

「おう!」あっ、つい返事をしてしまった。こやつの三郎様に対する気持ちに当てられたか?

まあ、よい。儂は儂のすべきことをやるだけだ。

それにしても、こやつ少しだけ見所があるな。


 佐渡に渡り、隼介の策が思い通りに進んで、羽茂城を落とした。当主を逃した逃したのが唯一の落ち度であったが、その一族は捕らえた。

 捕らえた者どもの内、女子供を広間に集めた。

「儂は、垪和又太郎という。お前たちの生命をあずかった、領主の家族はおるか?」 

 使用人、侍女が一斉に中心にいる娘を隠そうと身体を少しづつ動かした。

「私が本間高貞の娘、冬です。逃げも隠れもしません。」

と前で壁をつくっている女どもをかき分け前に出てきた。

「皆に危害を加えないでください。」

そのキリッと態度に惹かれた、捕虜のそれでは無かった。冬姫の周囲だけが明るく輝いて見えた。

又太郎は冬姫から目を逸らせずに

「これから雑太城まで歩いていただきます。皆の処分はそこでわが主君がお決めになります。」

キリッとにらみつけ、

「歩けと言うならどこまでも歩きましょう。」


 城門を出ようとした時、

お願いでございます!いきなり侍女が又太郎の足に縋り付いた。

又太郎の側付きが、「無礼者!」と侍女を蹴り飛ばした。

又太郎が側付きを制し、転がった侍女を助け起こした。

「何が言いたい?」

侍女は額を地面に擦り付け、

「お願いでございます。姫様を馬にお乗せください。長い距離を歩くのは無理でございます。」

そのようなことか。

「では、儂の馬に乗せてやろう。」


 又太郎は、自分の馬に冬姫と一緒に乗った。

勝利に沸く上杉軍の将兵はそれを見て囃し立てた。

流石の冬姫も俯いた。

又太郎もまた慌てて

「すまん。恥ずかし目を与えるつもりはなかった、許せ。」

二人は、馬の上でモジモジしていた。

 雑太城までの道中は、うれしいやら照れくさいやらであっという間に過ぎて行った。

冬姫は馬上、

 この様な辱めを受けるとは。負けるという事は恥ずかしい事であるな。それにしてもこの漢、悪鬼羅刹の類いかと思ったが、普通の容姿であるし照れて赤い顔が微笑ましい。


 城に入ると大広間に皆が集まった。

上座の三郎から、一番前に座れと指定された。

論功行賞が行われ、この城と鶴子銀山を預かることになった。

そして、最後に

「垪和又太郎、よくやった。もうひとつ褒美をやろう。」

まだ、あるのですか?

「本間冬姫を妻とせよ。」



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