47 御館の乱 前関東管領
「で、隼介。何処まで領地を割譲してもらえるのか?」
じっと勝頼の目を見て、
「領地でございますか、領地を差し上げても宜しゅうございますが維持できますか?御大将には領地よりもこちらの方が必要ではありませんか?」
持ってきた包みを開けると黄金が入っていた。
「ここには100両ございます。全部で5千両ご用意いたしましょう、内実は測ることはできませんが、軍資金は必要でございましょう?今領地を増やすより徳川、織田対策にはこれが一番良いと思いますが?」
勝頼は苦々しい顔をしながら、
「隼介相手に着飾っても仕方がない、その通りだ。長篠の戦いの時つくづく感じた。」
勝頼は思い出すのも辛そうだった。
「あの時、我らも鉄砲は数を揃えたが、弾薬の量が違いすぎた。我らがうち尽くしても織田軍の鉄砲は一向に衰えなかった。あれ以上の弾薬を揃えるのは無理だったのだ。当てにしていた甲州金も既に掘り尽くした。年貢だけではどうにもならん金がなければ戦もできん。金の差で大切な家臣を失った。
よく、話して下さいました。
「今回のご協力に5千両、これからの友好の印として5千両出しましょう。領民の年貢を少しでもお考え下さい、それが武田家のためになりましょう。」
では、
「これから、1万両受渡しのために武田軍2万、春日山城下に御招待いたしましょう。」
その頃、御館では前関東管領の上杉憲政が事態を憂慮していた。
「三郎殿は何を考えておるのじゃ!急ぎ乱を収束せねば越後が滅ぶぞ。」
子の憲重が、
「父上、落ち着いて下さい。三郎殿には三郎殿の考えがございましょう。」
いや、
「あ奴は、何時もヘラヘラして、女子の尻ばかり追いかけておる、此に至っても何も出来んのじゃ!」
儂が、
「中城殿に会ってこの事態を収めてくる。」
父上
「おやめ下さい、火に油を注ぐことになりかねません。」
憲政は、御館を身の回りの者だけを連れ、春日山城へ向った。
春日山城追手門では、入れろ、帰れと小競り合いが続いている。守る山吉勢は、門前に集結した景勝派の軍勢を押し返していた。
そこへ
「そこを退け!、通せ!我は前の関東管領なるぞ!」
と無理に押し通ろうとした。
景勝派の将兵は、一斉にそれを取り囲み、誰が令したか「御中城様への土産!」と槍が上杉憲政の腹に突き刺さった。
「何を・・」
取り囲んだ将兵から勝鬨が上がり、憲政の首と胴は永遠に別れた。
二ノ曲輪では、三郎と垪和又太郎、加藤段蔵が話していた。
「直江様の旗印が、こちらに向かってくる武田軍の中に見えるそうです。」
隼介の馬印は青地に白い隼をあしらったもので、三郎からもらった『海東青』の旗印である。
そうか、
「隼介は、上手くやったようだな。」
「又太郎、金がかなり必要なようじゃ、大丈夫か?」
「2万両ほど持って参りましたので、隼介がそれ以内で交渉を纏めてくれば大丈夫でございます。」
廊下から大変でございます。
「追手門で前関東管領上杉憲政様が討死されたようでございます。」
はぁ、
「上杉殿も上田衆も阿呆なのか?」
亡くなられたものは仕方がない、ちょっとだけ我らの味方をしてもらおう。
又太郎、
「合戦の準備じゃ!前関東管領様の敵討ちじゃ!」
おぅ、又太郎が動き出した。
中城と実城は切岸を挟んで並びあっている、但し実城の方が2間ほど高い。
又太郎は、二ノ曲輪に入れた自身の兵を率いて中城虎口前に待機させた。
そして、自身は実城の隅に新たに造った櫓に昇り、
「中城に籠る方々に申し上げる!」
つづいて
「先ほど追手門前の上田衆により前関東管領様が討たれた。これは上杉家に対する反逆である!」
さらに
「素直に降伏すればよし、さもなくば武田軍と共に討ち入り皆を弑す事になる!」
明日の朝まで待つ
「よくよく考えられよ!」