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42 天正6年正月・三郎

 年が明け天正6年となった。

 御実城様への挨拶、家臣からの挨拶、宴会と続き昨年の手取川の大勝利で上杉家中は、沸いていた。

越後に越中、能登、加賀、佐渡まで含めると上杉家は5カ国の主となった。兵も3万は優に動員できるであろう。


 二ノ曲輪では、「旦那様、何か腰が落ち着きませんね。何を隠していらっしゃるのですか?」

「いや、何もない。ちょっと直江屋敷へ留守宅の見舞に行こうかと思ってな。」

華はニコニコっと

「左様でしたか、私はまた坂井屋さんにおられるおはつ様が気になっているのかと思いました。」

えっ、えぇー。

「なぜ、それを知っておるのじゃ?」

真顔になって三郎に目を見つめ、

「先日、お船が連れてお出でになりました。何でもおはつ様が私に会いたいと仰られたようで。」

 町衆の格好で御座いましたが立ち居振る舞いの優雅さは隠せないもので素敵な方でした、それによく話をしていただきました。旦那様の幼き時の話しなどとても面白かったです。

「おはつ様は今は、坂井屋のお英さんですからお間違えなく。」

・・

「とても気持ちの良い方でしたよ、ご自分で何処へも行けるなんて素敵な方です。」

「この城で暮らしませんかとお誘いしましたが、商いが面白いのです。と断られてしまいました。」

・・

「関東管領も形無しですね。本日は商売の話で坂井屋にお泊りになるのでしょ。行ってらっしゃいませ。」

良いのか?

「このくらいで驚いていては上杉景虎の妻は務まりません。」


 城下に忍びで降りた三郎は坂井屋の暖簾を潜った。

店番の手代が姿を見ると慌てて奥に案内した。

広間では、坂井屋と段蔵が何やら話をしていた。

「段蔵来ておったか?」

松任城の直江様から、

「上田衆の動きに注意を。」

と指示がございました。

それでどうだった?

「御館様の金銀の力で上田衆の中も一枚岩でなくなっております。それに危機感を覚えた者どもが少々悪さをしようとしております。」


例えば、

「神余様は先年、山吉様に代わり三条城を預けられました。三条は上田から近い。ここを取り上げて上田衆に与えようと画策しております。」

「御実城様が許すはずも無いな。」

それでございますが、

「景勝様が長尾家、越後守護代の後継ぎと決まったことで上田衆の中には御実城様に隠居していただこうと考えているものもいるようでございます。」

「政景殿のことが尾を引いているのか?」

「政景様無きあと、何時取り潰されるか、ヒヤヒヤしながら過ごして来た者どもが、陽の光を浴びて気を大きくしたのでしょう。」

政景は景勝の父であるが、謙信には2度叛いている。最後も誰もいないところで溺死した。疑えば疑える死に方であった。

注意しておこう。

「段蔵、引き続き探索を頼む。」


ところで、坂井屋。

「隼介が鉄砲と弾薬と申しておった。」

「承っております。今、店のものが加賀に出向き直江様にお会いしておる頃でございましょう。」

左様か、

「儂は今日、ここの離れに泊まろうと思うておる。よいな。」

はい、

「承りました。では、後ほど夕餉などお持ちいたしましょう。」

そうそう、

「今日、お英は不在でございますが宜しいですか?」

へっ、

「何処へ行ったのだ!」

「先ほど申しました加賀へ行った店のものが英でございます。」

入れ違いか・・

「帰る。」

「お帰りになられますか?奥方様からも今晩はお泊まりになるので宜しくと頼まれております。」

なにぃ。

「泊る!酒を持ってこい。」

離れに向かって歩き出しながら、

皆でバカにしおって!くそ。飲み明かしてやる。

広間に残った二人は、

「まっ、奥方様のお仕置きでございますな。」

と笑っていた。


 坂井屋の離れは8畳間と控えの間が3畳の2部屋で出来ていた。

8畳間に入ると既に火鉢が置かれていたが、他には机ひとつだけの清々しい程何もない部屋であった。

ここにはつが住んでいる。

机を見ると紙蝶がひとつ、千代紙が数枚置かれていた。

よし、紙蝶を折ってやろう。と千代紙を折り始めたのだが、自分で折ったことがないことに気がついた。

隼介に習って置くんだった。

すまん、はつ。紙蝶さえ折れねえ。

その場で仰向けになり格子天井にはつの面影を見ていた。



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