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40 手取川・その後1

 滝川一益は、一里程引くと追手が来ていないことを確認して部隊を小休止させ、手取川に向け物見を放った。

 物見の報告により、織田軍の惨敗と生きている部隊がないことを確認するとその場所で敗残兵を収容しながら、やがて越前に向けて出発した。

「負けに負けたな、信長様に何と言えばよいのか思案せねば。」

それはそうと、

「他の部隊や部隊長達はどうなったのか?」

手許で使っている忍び達に戦場付近の確認を指示して足早に加賀を抜けようとした。


 一向一揆の武将である七里頼周は手取川より3里南の御幸塚城にあって戦況を眺めていた。手許には一向宗信者が報告を上げてくる。どうやら上杉軍の大勝のようだな。

そこに、一部隊、約8千が越前目指して南下している、との報告が入った。

七里頼周は、

「出陣する!織田の敗残兵を叩くぞ!」

七里の指揮する一揆が、滝川一益隊に向け出発した。


 引き潮となった手取川では満潮時に胸まで水に浸かっていた兵達も今は、腰下くらいにまでの水位で動けるようになってきた。

 投降するものは両手を上げ右岸に向かって歩いていく。水位が下がり少しだけ身体の自由が戻ったことで、誰が言い出したのか「捕まれば一生帰れぬ!来た道を帰ろうぞ!」と鉄砲の弾が飛び交う中を、身を屈め一団となって南方向へ進み始めた、それは最初は身を屈めてゆっくりであったものが岸に近付くと突然、大音声で「帰るぞ!」と叫びながら川中から岸辺の上杉軍に突撃していった。


 流石の直江隊も、死んだ敵が生き返ったようで驚き慌てた。隼介は即座に「各隊、円陣!」と叫び、防御姿勢を取らせた。

「各隊、個別に対処せよ!」

 と叫び、御実城様の様にはいかんもんだな。と思った瞬間、背後に殺気を感じ振り向いた。そこに見たのは数多くの火縄の明かりが並んでいる風景であった。いつの間にか川と反対側に織田軍の一隊がこちらに向けて鉄砲を構えているのが見えた。

遠いと瞬間判断したが、

『油断』だな。全く御実城様に及ばないな。

咄嗟に馬上で身構えた。

次の瞬間、叢雲が棹立ちになった。馬の扱いが上手くない隼介は、振り落とされてしまった。

叢雲はそのまま横に、どぅ、と倒れた。隼介が立ち上がった時、次の斉射が来た。兜のすぐに横を弾が過ぎて行ったのがわかった。思わず、まだ息のある叢雲に隠れると、叢雲は腹から血を流していた。

 俺を守るためわざと立ち上がったんだ。

敵は2斉射すると、闇に隠れるように去った。この攻撃でかなりの数の敵を逃がしてしまった。

 まったく、下手くそな戦をしてしまった。


 織田信長は、安土城で、手取川の敗戦の急報を受けていた。

「3万余の軍がほぼ潰滅と言うか・・」

言葉にならない呻きがそこにあった。

しかしそこは信長で、

「日向守(明智光秀)に直ぐに敦賀を押さえるよう伝えよ。」

「筑前守(羽柴秀吉)に直ぐに登城するように伝えよ。」

しばらく思案して、

村井貞勝を呼ぶと、大和で叛旗を翻している松永久秀との和睦のため朝廷工作を命じた。


 続報が次から次へと入ってくるうちに戦の概要が分かり始めてきた。そして、

柴田勝家・・行方知れず

丹羽長秀・・重傷

前田利家・・戦死

斎藤利治・・戦死

氏家直昌・・戦死

安藤守就・・戦死

稲葉良通・・行方知れず

金森長近・・行方知れず

と入ってくると、一言

「権六(柴田勝家)・・」


 兵も溺れ死ぬもの多数、帰還途中一向一揆にも襲われ、負傷していないものは居ない状況と報告が入ってきた。

 全てが転びそうじゃ。北陸軍が無くなってしまった。どう切り抜けるか思案のしどころだな。

それにしても上杉謙信、こちらの三分の一の兵力でこれほどのことを為すか。おのれは魔物か?鬼神か?


 この後、取り敢えず松永久秀と和解し、越前から機内への入口を塞ぐことで時間稼ぎをする事にした。


 上杉軍は越前まで侵攻し、北ノ庄城が見える位置にたどり着いた。

 北ノ庄城からは煙が上がっており、近づくと炎と共に焼け落ちる天守が見えた。

 北ノ庄城からやや南に位置する府中城を無血で接収すると本陣を置いた。

 残党狩りを行い越前から織田の勢力を駆逐すると越前を一向一揆に引き渡し、加賀へと引き揚げた。


 府中城に入った七里頼周は精力的に一向門徒を使い越前支配を進めている。一向宗指導部も加賀尾山御坊から北ノ庄城に移った。越前は一向門徒の持ちたる国に戻った。


 加賀には大聖寺城に河田長親が入り、三郎は隼介と小松城に入った。

 尾山御坊跡地に城を縄張りしている。自分の城をここに築くつもりである。

 「それにしても隼介、戦も下手なら、馬の扱いも下手くそだな。少し教えてやろうか。」

 面目ない・・

三郎は、そう言いながら叢雲の代わりになる駿馬を用意してくれた。

 叢雲よ、いやクモよ長い間ありがとう。


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