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36 能登七尾城

 天正4年8月ついに越中で最後に残っていた能登との境目の城である森寺城を落とした。

 謙信が永禄3年に初めて越中へ出陣して以来16年に渡る攻防であった。

越中を平定した上杉軍はさらに西に能登へと進んだ


 雪が舞う11月、能登に到達し石動山城に入った。七尾城攻略のため直江景綱により拡張整備が行われていた。

 幕府三管領の畠山氏の一族が能登守護を代々受け継ぎ、この時は5歳の春王丸がその座にあった。

 その居城は北に七尾湾を望む七尾城である。標高300m程の山城で、麓の城下町をも総構えで囲う、本丸の周辺には曲輪や有力家臣の屋敷が並び、本丸から伸びる尾根沿いに無数の曲輪や砦を擁し山全体が城という巨城である。その規模は春日山城に匹敵するのではないかと言われる。

 城主の畠山春王丸であるが、幼少で有力家臣達による合議で運営されている。この家臣の中から頭抜けた者が、やがて下剋上により能登の主となるという戦国時代前期のような状況にあった。

上杉軍を確認した畠山家中は長続連を中心に籠城策を採った。


上杉軍はこの巨大な山城を包囲したが、攻めあぐねた。

謙信は七尾城の支城郡を潰し、七尾城を孤立させることにした。

隼介は七尾湾の対岸にある穴水城の攻略に向かった。

穴水城は七尾湾北岸にあって、北に延びる山々の南端を利用した長氏の居城ではあるが、兵はほぼ七尾城に籠っており、一度の攻撃で陥落させることができた。

その頃、義父直江景綱は七尾城攻略のための付城である石動山城を整備しながら守備に入っていたが、体調が優れず、床に伏していた。

隼介が穴水城から七尾城を囲む上杉軍に帰陣するし、本陣に出向くと謙信が、

「直ぐに石動山城に見舞いに行け。」

と言うと自ら扇子を手渡し、

「これを持って行け、神五郎に、景綱に早く回復して儂を助けよ。」

と伝えてくれ。

景綱は謙信が栃尾城主であった時より常に側にあり、謙信を助け続けて来た、謙信もまた景綱を信頼した。股肱の臣と言えば第1に名の出る名臣である。

隼介は、馬廻りだけを率いて山道を石動山城に急いだ。

この時ばかりは叢雲も苦情を言わず無理をきいてくれた。


夕刻、石動山城の虎口を潜り、本丸へ急いだ。

景綱は床を払い、対面の間において隼介を迎えた。

「どうした?隼介らしくもなく慌てておるではないか。」

・・はぁ、良かった。この人が居なくなると謙信公も片腕を無くすに等しいからな、それに船の泣き顔は見たくないしな。

「思わず慌ててしまいました。御実城様がこれを持って見舞に行って参れと。」謙信の扇子を渡した。

景綱は恭しく戴くと扇子を開いた。

扇子には

『許大和守 命名長綱』と書いてあった。

「隼介、お許しが出た、今日より直江大和守長綱と名乗れ。」

しかし、

「大和守は義父上の官名ではありませんか?」

儂は、

「父が名乗った酒椿斉を名乗ろうと思うておる。この城で七尾城攻略のため兵糧、弾薬を絶やさぬようにするのが我が役割じゃ。これで御実城様を支える。」

信綱はこれまでにも、誰もやりたがらない小荷駄奉行を率先して務めてきた。決して弱い訳ではなく川中島合戦の時などは小荷駄隊の護衛部隊を率いて、武田義信隊を散々に破ったりしている。臨機応変でそれでいて補給の大切さを知るものであった。

隼介

「直江の家を頼むぞ。」

お任せ下さい。

・・これは、嬉しいな。ホントに認めて貰えたんだ。

でも、何故今なんだ?義父は何を思ったのだろう?

上杉軍は七尾城の支城群を攻略しながら越年した。雪を踏みしめながらの攻勢であった。

しかし、七尾城はよく持ちこたえていた。

年が明け、雪解けの時期になっても七尾城は落ちなかった。

3月に入ると、春日山城と石動山城からそれぞれ別の中身の急使が走り込んだ。

一通は北条氏政が蠢動し、上野を狙っているというものと、もう一通は直江景綱遠行(死去)というものだった。

謙信は直ちに撤退を決めた。

三郎が、

「それがしが、残りましょう。」と申し出たが、否との返事で、2日後には、撤退を始めた。

上杉軍は石動山城を経由して越後へ戻る。

謙信は石動山城にたどり着くと景綱の安置された部屋に急いだ。

「よいと言うまで、誰も入るな。」と言うと一晩を過ごした。

三日月が半月へと変わろうとする夜であった。隼介は部屋の外に佇み、義父の顔を思い浮かべていた。

明け方、部屋の中から、

「大和守!」と呼ぶ声がした。

隼介が、「ここに。」と答える。

部屋から出てきた謙信は、

「菩提寺へ連れて行ってやってくれ。」と言うと

広間へと去って言った。


広間に主だったものを集めた謙信は、

「越山を行い、北条を退治し、直ぐに戻ってくる。大和守はそれまで、この城を守れ。」

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