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34 越中平定

 武田信玄はこの年の10月、西上の軍を催した。

 謙信に背後を襲われないよう、加賀一向一揆と結び越中に謙信を釘付けにした。


 隼介は越中を転戦していた。

 尻垂坂の戦い以来、一揆勢の勢いが衰えてきた。

 神通川以東は松倉城を除きほぼ確保したと言って良い。

 上杉軍は神通川を渡り、一揆勢の指導者達が籠る滝山城を攻囲した。

 その様子を見た松倉城を守る椎名泰胤から和睦の使者が来たが、謙信は許さなかった。


 隼介に元亀3年10月、もう雪がちらつく季節に府中から連絡があった。

 「男子誕生。船無事。」とだけあった。

 隼介は、義父景綱と喜んだ。

「義父上、名をどうしましょう?考えて頂けませんか?」

「そうよのう、儂の幼名は伊勢松と言ったのだが、そこから松の字をとって松千代というのはどうだ?」

「よい名ですが、できれば義父上の名をそのままいただけませんか?」

「儂は嬉しいが、良いのか?」

是非とも、

これで、我が子が直江の子と認められる。


 上杉軍は一揆の指導者達が籠る滝山城を猛攻し落城させた。一揆指導者達は死を選ばず捕虜となった。

 11月に入ると北陸は雪の季節となった。謙信は越中を河田長親に任せると雪に追われるように越後への帰路へ着いた。

 隼介は、船のことを想い、子のことを想い気持ちばかりが焦る帰路であった。


 小雪が舞う日、直江家の対面の間で『はつ』が隼介を待っていた。

 隼介が襖を開けるとはつは頭を下げて

「直江様、ご無沙汰しております。小机の英でございます。本日は、お目通り叶いありがとうございます。」

 隼介は入り口に座り、はつを見ると久野屋敷で見たはつと別人のようなはつがそこにいた。

「はつ様、ここでは素のままでよろしゅうございます。妻にも義父にもはつ様のことは話していますから。」

そうなのですか、

「それでは、隼介様のご迷惑になりませんか?」

なんの、

「ここだけは、ということですから。」

改めて

「お久しぶりでございます。はつ姫様。」

別人のように落ち着かれたな、

「それにしても、よくここまでお出でになりました。」

旅では苦労されたのだろう、いいお顔をされている。

「三郎様の事はお聞きでしょうか?」

はい、

「謙信公の姪御様と祝言を挙げられたこともお子がお産まれになったことも聞きました。」

悔しいだろうに、表情に出す事もなくなったな、


「三郎様にお会い頂きたいのですが、そう簡単ではございません。」

「わかっております。ここまで来たのも私のわがままです。そういう機会が来ればいいと思うだけです。」

分かっておいでなのだ、旅の苦労がはつ様を変えたということか?

「三郎様は、時々この屋敷にも立ち寄られます。その機会が来るまで、この屋敷においでくださればよろしいかと思います。」

「ありがとうございます。でも、わがままを許していただけるなら、このまま坂井屋さんにご厄介になりたいとおもいます。」

それは?

「商いというものに興味があります。坂井屋さんで教えて頂いている最中でございます。」

ほう、ホントに人として変わってきたのかも知れないな。

「私は、女子だから商いなど以ての外だとか、駄目だとは思いません。納得のいくまで商いを学ばれるといいと思います、私も出来る限り応援いたしましょう。」

商いかぁ、良いものに興味を覚えたかも知れない、はつ様のご気性ならいいかも知れないな。


 はつは、ふと、思い出したように、先日、

「三郎様のお姿を越中征伐のお帰りに御城の端で見ました。三郎様の凛々しくお元気な姿を拝見しただけで、もう胸が一杯でございます。」

越中から帰ってきた時、町民が大勢集まっていた、あの中にいらしたということか。


あっ、そうだ。

「妻と子に会って行って下さい。お英様。」

英って『氏英』の英だよな。


 この年の12月、遠江、浜松城郊外の三方ヶ原で、徳川・織田連合軍は武田信玄に浜松城から見事なまでに吊り出され、信玄の西上軍に完膚無きまで敗れた。

信玄は、その後何故か西上の速度を落とし、三河野田城を囲むとそこで、越年した。


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