28 佐渡攻略 その1
元亀2年(1571)も4月になった。
この2、3月は、上杉家の最大兵力で越中に侵攻した。
富山城を始め松倉城等も強襲して落としてきた。
三郎も隼介も激しい戦いを闘ってきた。
隼介は府中の屋敷の執務室で訴状を読んでいると、小姓が
「殿、陣触れでございます。」
と触書を差し出した。
「与板に早馬をだせ。」
白湯を持ってきた船が「あら、戦ですか?つい先日越中から帰ってこられたばかりですのに。」
全くだ。
「今度は佐渡だ。」
「御実城様も人使いが荒うございます。」
「今回は、三郎様のようだ。」
「お二人とも嫌いです。」
「夏までには必ず帰るから機嫌を直せ。」
「まことですか?」
いつものことだが、船はやって来ると暫くは隼介の側に座っている。隼介もそれが嫌いではない。
・・目論見通りにいけば、7日で片付く。
「三郎様のところに行ってくる。」
「私も御一緒してはいけませんか?」
華様か?
「はい、華様から千羽鶴の礼がしたいからとお誘いを受けています。ご嫡男誕生のお祝いも申し上げたいと思います。」
三郎、華夫婦には待望の嫡男『道満丸』が誕生していた。
華が身籠ったとわかった時、隼介が教えた千羽鶴を折って送った。
三郎に船と二人、嫡男誕生の祝いを言うと、船は華の座所に行った。
「危うく顕景に総大将の座を奪われるところであった。」
「何とか言い繕ったが、危なかった。」
「顕景様が申し出られたのですか?」
いや、
「御実城様が、喜平次行くか?と言い出した。」
「顕景が言葉少ないのに乗じて、自分が行きます。」と言うたのだ。
御実城様も、まあ良かろうと仰られて儂になった。
三郎様
「もうのんびりしていられませんよ。」
宗哲様から
「相模守様(氏康)のご容態良からず。とありました。」
佐渡の鶴子銀山を三郎様の資金源とすることが必要です。
すでに、団蔵の配下により、佐渡の本間3家はお互い疑心暗鬼になり、お互いを攻撃しあっております。
今回、本間には族滅して貰います。
隼介は直江隊を率いて出雲崎の湊に着いた。
すでに、柿崎隊と三郎が先着していた。
「遅くなりました。」
いや
「まだ、山吉隊が来ておらん、昼頃になるようだ。」
「海は渡れそうですか?」
「今晩には出れそうじゃ。」
「その心配より船酔いの心配をしたらどうだ。」
う、痛いところを。
ちょっとこっちへ来い、と言うと本陣にしている商家の座敷へ誘った。
「隼介、宗哲様からの文。はつのことは書いてあったか?」
「気になりますか?」
まあな、
「嫁に行くようです。」
・・髪を下ろす、越後へ行くと騒いでいるとは言えないよな。
「そうか・・」
その夜、船団は湊をでた。
海流と風を捕まえ、明け方には、上陸予定の佐渡ヶ島西側、真野湾に面した沢根に着いた。本間一族で沢根に住する本間高次が陸から松明を灯し誘導してくれた。
事前に団蔵の配下を使い寝返らせておいた。
上陸すると本間高次が、河原田城は空です。
総出で雑太城を囲んでおります。
「よし、河原田城を落とす。皆、続け!」
河原田城は沢根から近い。
日が昇る中を直江隊を先鋒に河原田城に続く坂道を駆け上がった。
「越後からの使者である!開門!」
びっくりして出てきた門番を切り捨てて一気に虎口を突破した。
城の造りが30年遅れている。
曲輪と呼べる場所はここだけのようだ。
僅かな留守居を蹴散らし、本丸?の屋敷に踏み込む。
抵抗らしい抵抗もなく、留守居役という老武士が降伏して来た。
震える声を励まして
「何事でございますか?上杉様から攻められるようなことないと存じます。」
無言で無視をしていると、先ほどの老留守居役が、
「何卒、奥方様や女子衆はお許しください。」
全員の武装を解除し、女子供を一ヶ所に集め、見張りに一部隊を残して三郎は部隊を再編した。
国中平野の向こう1里先に雑太城がある。
今、その城を河原田勢、羽茂勢が包囲していた。
時を置かず、三郎は部隊を雑太城に向けた。
さすがに、雑太城を囲んでいる河原田、羽茂勢でも異変に気付いた。
河原田勢は雑太城正面から城とこちらの両方を睨める位置に下がったが、河原田城落城にかなり動揺している様子である。
一方、羽茂勢は、自領に向かって引いて行く。
河原田勢より使者が出た。
「これは、どういうことでござろうか?」
「この戦は本間一族の問題でござる。」
そうはいかん!
「すでに、御実城様の耳に届いておる。」
「降伏するものは命ばかりは助けよう。既に城は落ちた。城に残った者の命は我が手の中にある。覚悟をきめよ!」
使者を追い返すと全軍を前進させ圧力をかけた。兵の数やら鉄砲の数やら見せつける。隼介の下知がとんだ。
「鉄砲隊、火蓋を切れ!」
「狙え!打て!」
鉄砲音に驚き敵の陣形が崩れ始めている。
「皆のものかかれ!」
三郎の下知に隼介は
おう、叫ぶと隼介は真っ先に駆け出した。海東青の旗印が先頭を進んだ。
すぐに、直江隊と沢根本間勢が駆け出し、負けじと、他の隊も突撃した。
一番に駆け出した隼介であったが、馬の叢雲はのんびり駆け、敵陣についた時には、すでに敵は崩れていた。
「降伏するものは命は助ける!」
隼介は叫びながら、駆け回った。
三郎が近づいてきて、そろそろ馬を代えぬか?
「三郎様から頂いた馬です、大切にしているんですよ。」
叢雲に乗っていると何故か落ち着くんだ。もう少し頑張ってくれよと首筋をポンポンと叩いた。