24 祝言
翌日、総登城の太鼓が打たれた。
昼過ぎ、本丸大広間に上杉家中が集まり三郎の披露があった。
輝虎が『三郎景虎』と名を呼ぶと、沼田の時よりも大きなどよめきが起こったという。
三郎は控えの間に下がると隼介に
「隼介、紙飛行機の他に女子の喜ぶ小物を持たぬか?」
「藪から棒に何ですか?」
「今宵、祝言ということになった、初めての女子を和ませるものはないかと聞いておるんだ。」
女子か好きそうなものですか?
「千代紙で折り鶴でも折りますか?」
千代紙?折り鶴?
「作ってみましょうか?」
頼む。
となりの部屋に下がり、御女中、御女中と呼んだ。
「はい。何でございましょう?」
年の頃は13,4だろうか、やけに誰かに似ている気がする。
それに女中ではないよな、この格好は。聞いてみるか?
「あなたは?」
はい、
「今日はめでたい日で、女手が足りないとのことで、麓の屋敷から手伝いに参りました。」
さようか、
「ところでここに千代紙はあるか?」
「千代紙?そのような紙はございません。」
う~ん
「では、絵を描くような紙でよい。」
「はい、畏まりました。」
どこかで出会った気がするんだが、
考える間もなく
「お持ちしました。」
和紙を20枚ほど持って、先ほどの女性が帰って来た。
「これで宜しいですか?」
あぁ、長方形か、
「ハサミはあるか?」
はい、お持ちします。
紙を短辺を斜めに折り、はみ出た部分を切断して正方形を作る。
それを使って折り鶴を折った。
「わぁ、素敵。鳥ですね。」
そうです、と答えて気がついたけど、先ほどの女性が、目の前に座ってじっと見ていた。
「鶴なんですよ。興味がありますか?」
はい、
「紙でこのような形ができるのが不思議です。」
「鶴だけではなく船や鞠なんかもできますよ。」
そうなんですか!
「船を作ってください。」
船を折るのをじっと見つめている。少し照れるな。
「この船、水に浮かびますか?」
「それは無理ですよ。」
そうですか、
これは差し上げます。船と鶴を渡した。
これで、どっか行ってくれるかと思ったのだが、
「ありがとうございます。」
「高梨様は器用ですね。」
「そんなことはありません、誰でも折れますよ。」
「私でもできますか?」
もちろんです。
「教えて下さい。」
変な成り行きになった、
ところで、誰なんだろう。
鶴を共に折りながら
「なかなか筋が良いですね。」
「ありがとうございます。高梨様に褒められると照れます。」
「ところで何方ですか?」
あら、
「私としたことが、まだ名乗っておりませんでした。」
「センと申します。船と書いてセンです。」
突然、姫様、姫様どちらですか?
と探す大きな声が聞こえた。
「あら、もう、迎えが来てしまいました。これで失礼します。折り紙をありがとうございました。」
呆気に取られたままの別れであった。
あぁ、何か暖かい何かに包まれたような、懐かしいひと時であった、と気持ちよくそのまま机に突っ伏して寝てしまった。
隼介、隼介、何を昼寝などしておる。
三郎に起こされるまで心地よい眠りを貪っていた。
船さんか、どこの姫様なんだろう、また会えるかな?
余韻に浸っていると、
「ぼぅとしやがって、頼んだものは出来たのか?」
あぁ、そうだった。
「これです。折り鶴です。」
ほう、
「可愛らしいが、色気がないなぁ。」
「色のついた紙があれば良いのですが、」
仕方ない、
「これで行こう。」
と懐に入れた。
三郎が去ったあと、机の上に10枚の紙が残っていた。
その紙で、鞠を作り、船を作り飛行機を数種類作った。最後にイカ飛行機を作って飛ばした。
そうだ、子供たちが飛行機を追いかけている姿、横に立っている妻の姿が浮かび、ほんわかとする、あぁ、船さんの持つ雰囲気はこの感覚なんだな。
夜、本丸広間で三郎と輝虎の姪である華姫との華燭の宴が行われた。