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20 永禄13年3月 その3

 5日後、久野屋敷。


「三郎様、はつも一緒に参ります。はつだけ置いて行かないで下さい。」

 三郎ははつを抱きしめ、涙を拭った。小一時間もそうしていただろうか、はつの嗚咽が治まったのを感じると静かに離した。

「はつ、北条三郎の力ではもうどうしようもない。どれだけ足掻いても、足掻いてもどうにもならないんだ。」

だがな、

「私は負けない、きっと大きくなって帰って来る。」

三郎様、

「私はそれまでお待ちしています。」

「・・・・」


 そうだ、

「はつ、これを見よ。」

懐から紙飛行機を出し

「紙飛行機というものだ。隼介に教えてもらった。」

こうしてこうして、軽く飛ばすと室内をゆったりと舞った。

「蝶みたい。」

「蝶か、それは良い。これからは紙蝶と呼ぼう。」

床に落ちた紙蝶を拾い、はつに渡すと

「毎年、はつを想いながら紙蝶を二つ折ろう、ひとつを送る。自分と思ってくれ。」

はつは、受け取った紙蝶を胸に抱き、

「三郎様・・」


 その夜、夕餉も終わり宗哲の部屋に長順、三郎と隼介が集まっていた。

「三郎、我らはこの同盟が破綻せぬように努力する。何とか10年は持たせたい。」

「無理でございます。父(氏康)がみまかれば、左京大夫様は即座に甲斐との同盟を復活させるでしょう。私も座して死にとうはありません。足掻くつもりです。」

そうよのう、

「御当代は、戦も不味くないし、領民の事も考えられる殿様なのじゃが、どうにも外交が下手じゃ、広く世の中を見ておらんと身の破滅を招くんじゃがな。」


 そして

「それは、周りの者もわかっておるんじゃ、板部岡が嘆いておった、世の中は激しく動いているのにと。

 一昨年には尾張の織田が15代様(室町幕府15代将軍)を京に戻した。織田の力は侮れん、直ぐに何らかの手を打つべきだと申したのじゃがその意見も容れることなかった。もはや手の打ちようがない、ほんとに困ったことじゃ。」


 三郎、

「その迷惑をそなたに押し付けてしもうた。すまんな。」

せめて、

「この男達も連れて行ってくれ、必ず役に立つ。」

後ろに控えた20をちょっと過ぎた男が、

「興国寺城代、垪和氏続一子、又太郎信之と申します。」

「垪和は、宗瑞公に備中から付き従った家であるな、北条にとって最も古い家臣の末で苦しい時も一緒にあった、非常に心強い。」

「は、力の限りお仕え致します。」


 そして、宗哲が手を叩くといつの間にか部屋の片隅に男が座っていた。

「加藤段蔵」という。

「風魔とはちょっと毛色が違うが使える男だ、三郎の側付きとして同行させる。」

段蔵、何か言わんか?

「加藤段蔵でございます。頂いた報酬の分は働きます。」

ま、そう言う事じゃ。

「段蔵には10年分渡しておる、それ以上はその時の相談になる。」

「配下は何人ほど使える?」

「10人はおります。」

「三郎、上手に使え。」

「段蔵、よろしく頼む。」

それから

「気付いておるかもしれんが、馬丁だか、風魔の繋ぎの者じゃ。風魔からの取次ぎは長順がやっておる、必要なら何人でも送る。」


 それに

「小姓や側付きを10人ほど選んでおるのだか、ほんとに要らんのか?手練れの者も何人かおるぞ。」

「10人や20人連れて行ったとて、どうなりましょう。それより裸同然で飛び込んで、向こうで味方を作った方が良いように思います。」

そうか、では、

「三郎と隼介に又太郎、段蔵で行くことになるな。小者には風魔の者を選んでおく。儂に出来るのはここまでじゃ、すまんな三郎、死ぬなよ。」

「滅多なことでは死にませんよ。これでも幻庵宗哲の弟子でございます。」


出立は、6日後、4月5日の予定である。




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