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18 永禄13年3月 その1

 隼介と松右衛門は、田の乾田化の指揮をとっていた。

 竹はどうにか手に入ったが、米の収穫後であったため、籾殻が集まらなかった。

 暗渠排水を施した3反ほどの田を見ながら

「集まった籾殻では、このくらいが限界ですね。」

松右衛門は排水口を見ながら

「それにしてもよく水が出るものです。」

肥料を

「2~3日内には干鰯を撒きたいですね。」

慌てないで

「もう少し乾かしてからで良いと思います。」

泥だらけの裾をはたきながら、

「今日はここまでにしましょう。」


 城まで2人でとぼとぼと歩いていると、向こうから誰かが走って来るのが見えた。


 藤助は隼介を見つけると走るのをやめ、息を整え始めた。かなり走ったのでこのままでは喋られない。

「殿、急いでお戻りください。」

何があった?

「急使が駆け込んで来ました。三郎様が、お探しです。」


 城に帰りつくとすでに三郎の姿はなかった。

 平左衛門照重が

「三郎様は小田原に向かわれました。父も一緒です。小鳥遊殿も急ぎ久野屋敷までお出でください。とのことでした。」

「平左衛門様は、何かご存知ですか。」

さぁ、

「急使が、参りまして父と三郎様が膝付き合わせて話しておりました、三郎様が話が進むに連れ、お怒りになってそれを父が宥めておりました。」

ということは、

「三郎様に面白くない話ということですね。」

おそらくは、

「小鳥遊様も早々に立たれたほうがいいでしょう。」


 道案内と共に隼介は夜を徹してクモを駆けさせた。クモが潰れないように気は焦るが並足と早足を交互に繰り返し、1刻ごとに休みを入れながら、気持ちだけが先走っていた。

休みを取った時、水を飲みながら

「藤兄ぃ、きつくないか。無理させてすまない。」

藤助は息を切らしながら、

「なぁに、これぐらい。」


 久野屋敷に着いたのは、夜明け前であった。

厩にクモを繋ぎ、台所から屋敷に入った。

朝餉の支度をしていた女達が、一斉にこちらを向き、

「隼介様、どうなさいました?」

厨取締の女中が、

「誰か、足洗いを持って来て、それから奥に知らせて。」

礼を言って足を洗っていると、奥から見知った小姓がやって来て、

「小鳥遊様、お待ちしておりました。中の座敷までおいでください。」

確か、長順様の小姓だよな、

座敷の前で小姓は膝をつき、

「小鳥遊様が見えられました。」

「入れ。」


 まだ、暗い中、長順は灯りを点して待っていたようだ。

「隼介、ややこしいことになっている。」

ややこしいこと?

「相越同盟のことは存じておるか?」

はい、

「これで上杉輝虎公に領内が荒らされずに済むと喜んでいます、輝虎公はまるで暴風でございますから。」

そうよな、

「この10年、領民は皆苦しんだ、領主として北条も苦しんだ。」

ところが先年

「相、駿、甲の同盟を甲斐が破った。お主達も蒲原城で苦労をした。甲斐の武田に対抗するため越後との同盟となった。」

 

 同盟を結ぶに当たり、

「2人の関東管領という問題があった、輝虎公も駿河守様も関東管領だ。」

何度かの話し合いの結果、

「駿河守様が降りられ、関東管領は輝虎公と決まった。」

そして、

「御当代の次男、国増丸君を輝虎公の養子とし次代の関東管領とすることが決まっておった。」

ところが、

「突然、国増丸君を三郎様に変えると左京大夫様がいい出した。そして、上杉もそれを認めた。青天の霹靂とはこのことじゃ。」


 それまで、じっと聴いていた隼介が

「変ですね、国増丸君は国王丸君(氏直)に何かあったら北条の御殿様になられるお方、対して三郎様はただの連枝でございますから、かなり格落ちになりませんか?」

「そういうことだ。上杉に北条の気持ちを疑われかねん。」

それに

「御当代様の奥方様は武田から来ている。お二人は大変仲が良いと聞く、奥方様に引きずられて気持ちが武田に向くのではないか。相模守様の体調が優れぬ状態では、この同盟いつ破棄されてもおかしくない。」

「そんなところに人質に行くのは殺されに行くようなものではありませんか。」

だから、

「父(宗哲)は、激怒した。大変な怒りようだったらしい。その後、一門衆に集まるよう指示を出した。今は三郎様と小田原城に詰めている。」


 どうなるのでしょう。

「相模守様しだいだと思うが、体調がおもわしくないらしい。」

では、

「相模守様抜きで決められるかもしれんな。」

父より、そなたに伝言がある。

「三郎が越後に行く事になっても、そなたはいかずとも良い、我が下におれ。」と。

いえ、

「某の主人は三郎様だけでございます。行き先が地獄と決まっていても従います。」

であろうな。

「そなたがそう言うたら、城に来いと。」伝えてくれとのことであった。

「夜が明けたら、共に城に登ろうか。」







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