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16 小机城

 夕刻、小机城まであと半里ほどのところで、出迎えの小隊に出会った。

 我らを待っていたのは城代の嫡男で笠原平左衛門照重と名乗った。

「出迎えご苦労。」

 一行は隊列を組んで、小机城へ入城した。


 小机城は現在の地名で言えば横浜市港北区にあった。山の上の2つの曲輪を中心に山全体を防御施設化した連郭式の城である。

 本丸につながる虎口から城に入った、追手(大手)というには貧弱で戦いのための出入口である。政庁の入口とするには改善の余地がある。


 本丸、大広間に城の主だった面々が揃っていた。

 「三郎氏英である。今日より、小机城を預かることになった。ここに集まってくれた北条五旗、白旗の爽々たる面々にまみえることができ嬉しい、皆の活躍は聞いておる。これからも頼むぞ。」

ははぁ、

城代の笠原能登守康勝が

「三郎様、それでは一人一人挨拶をお受けください。」

うむ。

某は・・

そちの国府台での武勇は聞いておる。これからも頼む。

その方の父は、残念な事であった。父以上に期待している。

その方の作った用水路は良い出来だそうだな、今度案内してくれ。等々

 三郎はひとりひとりの挨拶を受けると必ずその者の功績と褒め言葉を返した。

・・この人は何だ?いつ覚えたんだ?

 自分の事を知ってくれていると言うだけで最後の頃には、諸将は三郎を前のめりで見つめていた。


 挨拶は以上でございます。

「能登守、よい者どもを揃えたな、見事である。ここに集まった白旗の強さを実感してみたい、一度訓練を見せてくれ。」

はっ、喜んで、

「一度、鷹狩りをやりましょう。」

それは、楽しみだ。


 三郎は本丸の館に入った。

 それほど広くはなく、武骨な造りである。

 はつを呼ぶには、少し増築が必要だな。

 あの辺りに、はつの部屋を造るか、

 それに追手の虎口もどうかせねばな・・


 襖の向こうから

「小鳥遊様がお出でです。」

「通せ。」

隼介が前に座ると、

「どうであった。儂の挨拶は?」

「お見事でございました。」

「見直したであろう?」

・・この人たらしめ、

「どちらで調べられたのですか?」

「義父殿に書きつけを作ってもらったんだ。」

それを覚えた?

「それが、一番手っ取り早いじゃないか。」

・・手っ取り早いって、常人には出来んだろう?


ところで

「あの辺りに、はつの部屋を造ろうと思うがどうだ?」

思案顔に

「はつ様もお喜びになられましょう。ついでに庭も造られたらどうでしょう?」

いいなぁ、そうしよう。

「しかし、部屋など作っていては、お迎えに行くのが遅くなりませんか?」

「迎えが遅くなるのと、こちらに来て住まいの苦情を聞くのとどっちが良いと思う?」

「私はどちらでも構いませんが?」

笑い顔で

「他人事にはならんぞ。」

・・痴話喧嘩に他人を巻き込まないで頂きたい。

それはそうと

「明日から早速、領地をまわろうか?」


 翌日、朝餉を済ますと早速、巡回に出ることにした。

 案内役は、迎えに来てくれた笠原平左衛門照重が同行してくれることになった。


 のんびりとクモに乗って2人の後をついて行く。

轡を取っている藤助が

「北斗の馬丁が変わりましたね。」

そう言われて見れば、

「どんな奴なんだ。」

「愛想はいいですよ、ただ、何処となく雰囲気が違うと言うか・・」

「気をつけておいてくれ、オレも気にしておく。」


 城下町に出た。城代笠原能登守が寺を配置し、武士の屋敷を置いた。その外側に商店、職人等の住居が職能ごとに集まっている、小さな街だが中々整備されている。

 中心部に入ったところで馬を降り、周りを見ながら歩きだした。通りには、人々が行き交い商店を覗いたり、路上で商談を始める人たちまでいる。見かけた町人たちも境目の城の城下町のような緊張感はなかった。

・・そう言えば、この辺りはしばらく戦場になってないなぁ。


 平左衛門は、気安く声を掛けてくる町人に答えながら、歩いていく。

街を抜け

「うるさい街ですいません。」

「活気があって良い街だ。そなたらの施政の良さであろうな。」

嬉しそうに

「父が聞いたら喜びます。精根傾けた街でございます。」

能登守は、

「武だけでなく治にも優れておる。見習わねばならん。」

そう言うと再び馬に乗った。


 周辺の村を周り、城に戻った一行は、能登守と共に夕餉を摂った。

「隼介、どうであった。」

はい、

「戦から遠ざかっている土地ではありますが、荒地がまだまだ多く、田もほとんどが湿田ですので、なかなか収獲は増えないのではと思います。」

何か方法はあるか?

「湿田を乾田化し、田起こしをするだけでも収獲は増えますし、その折、干鰯などの肥料を混ぜ込めばさらに増えましょう。」

・・なぜ、知識がでてくるんだ、機械化のため大きく方形の圃場・・整備された用排水路・・何なんだろう・・


 他にも

「田植えの方法、種籾の選別法などでも変わります。何年かかけ徐々に変えていきたいと思います。」

隼介殿は

「農業に詳しいと見える、我が配下にも収獲を増やすために取り組んでいるものがいます、ご教示願えませんか?」

「私も見様見真似なのでございます、こちらこそお教え頂きたい。」

「明日にでも早速、引き合わせましょう。」


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