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14 玉縄城

 三郎一行は正月10日に久野屋敷を立った。

 まず挨拶に小田原城に登った。

 約束通り、はつを連れての挨拶となった。

 はつは大人しく、お淑やかであった。

 相模守も、雛のような二人よ、と大層な喜びであった。

 小田原城を出ると、はつは一行と別れ久野屋敷に戻った、「落ち着いたら迎えに行く。」という三郎に「お待ちしております。」嬉しそうに答えた。


 小机までは十数里ある。今日は玉縄城に一泊することになっている。

 玉縄城は小田原城を守る外城の一つで、川を通して海に出ることができる水軍統括の城でもある。

 この城を整備した氏綱は里見氏との鎌倉での戦いのあと、鶴岡八幡宮の再建のため、この城から鎌倉へと通い再建を指揮した。氏綱が小田原城に引き揚げてからは、北条五色備の内、黃備えを率いる北条綱成が守っている。

 綱成は幼い頃、駿河より流れてきて、氏綱の保護を受けた。   

 氏綱は綱成の気性を愛し娘婿とした。北条一族となった綱成は黃備えを率いて数々の戦に参戦したが、最も有名なのは〈河越の夜戦〉であろう。この勝利も綱成の河越城での籠城が続かなければ勝てなかった戦である。


 玉縄城で会った綱成は好々爺していて、とても軍神には見えなかった。もう50をいくつか越えただろうか。

「三郎殿、お越しいただきありがとう御座います。今日は城主康成が下総に行っておりまして不在です。このような年寄りがお相手致します。御容赦ください。」


 それはそうと

「ご結婚おめでとうございます。新婦様はご一緒ではありませんか?」

三郎は少し照れて

「まだ、式を挙げておりません、式には伯父上も是非お越しください。」

「もちろんでございます。宗哲様がどのようなお顔をされるか見物でございますな。今夜はたいしたおもてなしもできませんが、夕餉を用意させます。暫くご休息下さい。」


夕餉は城の前の海で採れた魚を中心に出された。舌鼓を打ちながら、

「伯父上の戦話を聞きたくて伺いました。河越の夜戦の話などお聞かせください。父に聞いても「参考にはならん、真似してはいかん戦じゃ、」と取り付く島もありません。」

「相模守様の言う通りです。戦は己を知り敵を知る事からはじまります。そして、いかに有利な条件を作るかで戦う前に八割方決まります。あの戦はよくありません。」

三郎様は

「相模守様が勇ましく10倍の敵を蹴散らし、川越城を救い、両上杉を完膚なきまで叩き潰した。とでもお思いではありませんか?」

とんでもない事です。

「三郎様ですから実態をお話しましょう。」


あの時は、

「長年対立していた山内上杉と扇谷上杉が連携し、まさかと思いましたが相模守様の義兄弟である古河公方までもが加わり関東の諸将を集めました。結果7万とも8万とも云われる大軍に河越城は囲まれました。」

私は、

「河越城に3000の兵で籠っておりました。」

一方、敵は

「結局は、自分の事しか考えていない烏合の衆でございました。城攻めで損害を出すのが嫌なのでしょう囲むだけで戦らしい戦はございませんでした。それどころか陣営毎けん制し合っているようでした。」

そのような敵ですから

「8万の囲いを抜け小田原との連絡ができておりました。」

問題は、

「城兵の士気でございます。これが一番大変でした。まだまだ兵糧は付きぬとか直ぐに味方が来るとか、励まし、励まし士気を落とさぬよう努めておりました。」

そのうち

「相模守様が来てくださる事は疑う余地のないことでございましたが、駿河の戦次第では何時になるのかが分かりませんでした。」

相模守様は

「敵を油断させるために、恭順の意を敵に伝え続け、戦を避け油断を誘いました。」

そうする内

「弟が駿河守様からの言伝を持って来ました、駿河守様が敵陣に突入するのに合わせて、城からも打って出よと。」

当日

「相模守様は僅か8000の兵で数倍の山内上杉家の陣に夜襲をかけました。」

しかし、

「最初こそ押しましたが、何せ兵力差がありすぎました、徐々に劣勢になりました。」

その時

「敵将難波田憲重を打ち取った、との声が響き、さらに扇谷上杉朝定がにわかに陣没したのです。敵は自ら崩れました。」

扇谷は

「北条が使っている忍びの手に掛かりました。」

しかし、

「全く運のなせるところ、一つ狂えば我が方が崩壊する可能性の方が高かったのです。あのような戦いは二度としてはいけません。特に忍びをあのような決戦の場で使うのは危険でございます。」

・・凄い人だな、勝っても全く驕りがない。さすが地黄八幡。


「良い話をありがとうございました。」

ところで、

「北条の忍びとは風魔のことでしょうか、私も彼らを使えるようになりますか?」

三郎様ならば

「宗哲様からいずれお話がありましょう。しかし、忍びは毒にも薬にもなることだけは覚えておいてください。」

もう一つ

「敵を知るにはどうすればよろしいでしょうか。」

それは、

「日頃から耳を傾けることです、細作を放ち、また商人から情報を集めることも効果的でしょう。」

そのうえで、

「外交で決着するのが最善でございますが、戦になるなら調略を用いてこちらが兵力でも作戦面でも有利な状況を作ることです。」

そして

「己の実力を過信しないことです。」

三郎は感じ入ったように、チャチャも入れず

「事前の準備が大切なこと、決して忘れません。」

大変有意義な一日が過ぎて行った。

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