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103 海東青、翔ぶ

 敦賀の街は喧騒の中にあった。

 湊に荷が入り沖の本船から荷揚げする沖仲仕達や商人達の熱気が溢れていた。

 その中を隼介一行は奉行所に着いた。


 玄関を入ったところ、框に立つ姿があった。

 明るい外から薄暗い場所に入ったために眼が慣れず相手の姿が次第に明らかになってくる。

「隼介!」

 この声は『はつ』様だ。いや今は胡蝶屋のお英様か。


「ご無沙汰しております。」

「挨拶はよい!足を洗って上がりなさい。」と言うと奥に向かって歩いていく。

 足を濯ぎ、玄関からお英様が入った部屋に向った。

 8畳ほどの部屋である。庭に向いた障子が開けられ明るい日差しが注いでいた。

 久しぶりに会うお英様は相変わらず若く妖艶な雰囲気を漂わせている。

 相変わらずお綺麗だな・・

 などと思っていると、

「三郎様から文が届きました。」と内容を交えて話し始めた。


 我が最良の友である隼介は、相変わらず自分に尽くしてくれている。

 自分の悪評、いや上杉の悪評も一身に背負い込み嫌われ者になってくれている。


 しかも隼介は自分の身を守ることをしないのだ。何時か破滅が訪れるのを待っているかのようにもある。

 しかし、儂は隼介に居てもらわねば困る。

 一人で考え、一人で実行するにはこの日ノ本は大きすぎる。

 二人いれば力は5倍にも10倍にもなる。自分だけでは不足なのだ。


 丹波の波多野を焚き付けたのは恐らく織田であろう。織田は羽柴にも手を入れているようだ。

 波多野ごとき一捻りにしてやろうかと思いもしたが、今丹波で騒乱が起きるのは時期的にまずい。

 それに波多野が隼介の暗殺を依頼した鞍馬の忍びは依頼主が死んでも依頼をやり遂げるらしい、丹波は昔から京の貴族どもとの繋がりが強くその繋がりを利用したらしいのだ。

 波多野はまだ上杉の旗下にある、この内に説得するしかない。

 その間、段蔵の許か又太郎の佐渡かで身を隠しておけ。

 必ず、迎えを出す。

 ということです。


「私が見ていてもあなたは三郎様の影のようでもっと自己主張なさればよいのに、と思っておりました。

 隼介、あなたは自分を犠牲にして三郎様を押し上げようと思っていませんか?

 その考えは間違っていますよ。

 あなたが居なくなって三郎やお船さん、伊勢松様に産まれたばかりのお子のことを考えたことがありますか?」


「あなたは直江家の当主でもあるのですよ。」

「三郎様は、鞍馬の忍びなど段蔵と風魔を総動員してでも叩き潰す。隼介は一年で呼び戻す。

 今回のことに関わった者は赦さん!と息巻いていらっしゃいます。」

 滂沱の涙がいつしか流れ落ちていた。


「隼介、ここには3階に望楼があります。湊を見てみませんか?」

「湊でございますか?」

峠から見たガレオン船をここから見ることができるのか、と思いながら腰を上げた。

「先に上がりなさい。」と隼介が先に上がった。

 3階は四方が見えるよう天守閣の最上階を模したようになっているらしい。

 階段を登り切ると10畳ほどの板の間に陽光が差し込んでいた。

 そしてそこに1人の女性が座っていた。

「船!」思わず名を呼んでいた。

 駆け寄り手を握った。

 側に赤子がすやすやと寝ていた。

「幸松か?丸々として元気そうじゃ。船は産後は大丈夫か?」

 手をギュッと握りしめ、

「旦那様こそ大変な目におあいになられてご無事な姿を見ることができてようございました。」

 無理に笑おうとして失敗した船は隼介の胸に顔を埋めすすり上げた。


 しばらくして、顔を上げると

「取り乱して申し訳ありません。」

「船、苦労をかけた。府中の屋敷が燃えたと聞いた。さぞ心細かったであろう?」

「それがでございます、伊勢松が陣頭指揮を取りまして、びっくりするやら嬉しいやらでございました。」

「お城の奥方様からもお英様からもおいでなさいとお誘いを受け不自由はございませんでした。それどころか柿崎様、山吉様はじめ揚北衆の竹俣様、新発田様まで沢山の御家中の方々の見舞いを頂きました。皆様旦那様に感謝されておりました。」

 ふと笑みがこぼれると

「特に垪和様はガレオン船に一杯の見舞いの品を持って来られ焼ける前より物持ちになってしまうほどでございました。」

 その風景を思い浮かべていると続けて、

「伊勢松が父上にこちらは大丈夫ですから心配なくと申しておりました。」


「幸せな話しの最中にごめんなさいね。」

 隼介の背後からお英が声を掛けた。

「こちらからご覧なさいな。」

 部屋の北側から湊を見た。沖に浮かぶ2隻のガレオン船は他の船を圧倒する大きさを誇っていた。

「隼介、あのガレオン船、左側が胡蝶屋の信濃丸で右側が海東丸といいます。」

「海東丸は新造船です、習熟航海が終わったところなのです。又太郎が隼介に好きに使って貰ってください。と寄越した船です。」

 自分が好きに使える船・・自分の船・・

「どうでしょう?二人共にあの船に乗って往きませんか?」

「私はこれから九州は博多に行きます。博多に支店を開いたのですよ。二人に博多の店を任せるので好きにやってみませんか。」

 船と二人顔を見合わせ、共に破顔した。

「私共にでございますか?」

「不満ですか?府中のほうは伊勢松を元服させれば良いでしょう。これまで二人一緒に過ごしたことはほとんどなかったのではありませんか?三郎様に呼び戻されるまでの一瞬だけですけどね。」

「二人でお世話になってよろしゅうございますか?」

「世話になるのは胡蝶屋の方ですよ。隼介はあの船で日ノ本から朝鮮、琉球などを駆け巡りなさい。船もついて行きなさい。上杉の船に女人禁制などありませんから。二人で商売をしてみませんか?隼介は商売の素養がありますからすぐに覚えますよ。」

 自分に商売ができるだろうか?

 船と二人力をあわせてか・・

 お英は二人の返事も聞かずに

「それでは、隼介は胡蝶屋三番番頭の青右衛門、船は舟と名を改めて早速参りましょう。」

 隼介と船は顔を見合わせて、やがて、

「では、ご主人様。青右衛門と妻舟、博多に行って参ります。」

 長い間お付き合い頂きありがとうございました。ここで一区切りといたします。

 作者もこの続きや、はつ様、又太郎そして松平信康に真田源次郎と気になる者たちを残したままになるのが心残りです。

 また、いつかお逢いしましょう。

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