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102 隼介、失意の旅へ?

 翌朝、隼介一行は大津湊から段蔵が用意した船に乗った。

 水面は静穏で風も良く心地よく帆走した。途中右手に安土が見えた時には感慨深いものがあったがそれも一瞬でやがて長浜の湊が見えてきた。


 三郎の指示は「敦賀から船に乗れ。」というものだった。

 長浜の湊に上陸すると長浜城を見上げながら通過した。

 常なら挨拶に寄るところであるが、罪を得たに等しい今は遠慮した。

 城主が斉藤下野守朝信であることは、それほど気になら無かった。

 斉藤様に殺されてもそれは致し方ないという達観に似た感覚があった。しかし、わざわざそうした事態を招くのは両家のためにはならんなと通り過ぎたのである。

 長浜から木之本宿まで約5里、今日はここに泊まり明日、敦賀に入ろうと思っていた。

 木賃宿に部屋を取り、小者が仕入れてきた肴で夕餉にした。

 夕餉を取っていると「お客様、お客様」と宿の亭主がやって来て、「長浜のお殿様が見えられました。」と斉藤朝信を案内してきた。

 越後の鍾馗様といわれる、見るからに豪放磊落な漢がそこに立っていた。

「大和守、水臭いではないか?今日あたり城を訪ねてくるかと思い準備しておったのに素通りかよ!」

 50を幾つか越えても迫力に衰えてはなく気持ちの良いほどの大音声である。

「斉藤殿、罪を得て越後に帰る身でございます。ご迷惑は掛けられません。」

「何が罪じゃ!そなたのお屋形様を思う心持ち、家中のものなら解っておるわ!」

 不意に頬を涙が伝い、それを拭うこともせず、

「某の悪辣な策のため、いやな思いをさせましたのに、そのようなことを・・」

 隼介の前にドカッと腰を降ろすと後に控える小姓から徳利と碗を受け取り、小姓に「下がれ」とばかり手を振った。


 碗を隼介に差し出すと自ら酒を注いだ。

「大和守、お主の策を恨んだ事もあった。だが、そなたはいつも逃げずに自分の策である、責任は自分にあると汚名を被った。誹りは自分で受けてきた。最初は当然のことだと思っていた。しかし、最近はそなたを尊敬しておる、小人に出来ることではないと思えるようになった。」

 そう言うと、さらに酒を注いだ。

「お主とこうして腹を割って話す機会がなかったことが恨めしいよ。一度本心を聴いておきたい、どうじゃ、話してくれんか?」


 碗を一気に飲み干すと

「私は出自も分からない孤児でございます。幸いにも義父、義母に出会い、三郎様に出会いました。三郎様からはまるで朋輩のような扱いでございました。さらに自分のような者の建言にも真摯に耳を傾けて下さいました。どう考えても奇跡でございます。三郎様から受けた恩に比べれば私の生命など塵の様なものでございます。」

 静かに聴いていた斉藤は、

「半分正解、半分間違いだと思うぞ。御屋形様は儂から見ても帝王の質だと思う。だが、お主も王佐の質ぞ!何処にもない才能だ、御屋形様はお主を天が与えてくれたと思うたであろうよ、卑下することはないお主の実力よ。」

 その言葉に驚き、目を見開いて斉藤を見つめた、

「そのように言うて下さりありがとうございます!」

 静かに落ち着いた声で、隼介を落ち着かせるように

「この件は暫くかかると思う。今、丹波が叛旗を翻せば惣無事の件が遅くなる。誰が波多野に吹き込んだのか知らんが当に悪魔のような所業じゃ!越後で久しぶりにゆっくりするとよい。そういうてもお主が暇にしとると分かれば在地の者達が放ってはおかんじゃろうがな、は、は、は」

 斉藤の気遣いが嬉しく、ついつい涙が出てしようがない。

 結局、夜が更けるまで2人で飲み明かした。

 嬉しい夜であった。

 但し、皆が寝静まった後、庭や襖の外でくぐもった金属音が此処彼処に聞こえた、脇差を引き寄せ身構えが朝は何事もなく向かえられた。

 段蔵、すまぬな・・晴れた空を見つめながら呟いた。


 次の日、隼介は斉藤朝信が付けてくれた護衛20人に守られながら敦賀へと旅立った。

 敦賀へ向かう峠道は整備され、行き違う人も多くいた。

 その者達は完全武装の一団を見るとぎょとして道脇に避けて行きすぎるのを待った。

 隼介は苦笑いしながら見ていた。

 総じて行き交う人々の顔は明るかった。


 峠を越えると木々の間から敦賀の湊が見えるようになった。

 沖に大きな西洋式帆船が2隻見える、「あれはガレオン船ではないか?又太郎の船なら凄いなぁ!」他にも大型の和船、中国式のジャンク船が数隻見受けられる。

 敦賀の湊は栄えているようだ。豊前守(河田長親)様の努力の結果だな、と独り言を呟きながら笑顔で峠道を下っていった。





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