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101 三郎、隼介を呼ぶ

 その日、隼介は二条城にいた。

 三郎は二条城を地方から上ってくる大名の謁見などの公式の場に限って利用していた。

 自身の京の居所として京の北で荒れていた内野に城を造り始めていた、使えるのは来年になる予定であった。


 本丸謁見の間に三郎を前に平伏していた。最早、昔の三郎、隼介の間柄ではない。

 二人とも有名になりすぎた。一挙手一投足が注目され、身に覚えのない噂にも枚挙に暇がない。

 それにしても二条城で会うというのは違和感があった。


「大和守、久しぶりじゃ。この度の大垣城までの奪取見事であった。これで近江と美濃が繋がり美濃の支配も堅固になった。」

 三郎も硬いが隼介も硬かった。お互い分かり合うだけに尚更であった。

「それも内大臣様の御威光のお陰で御座います。日ノ本惣無事の事も間もなくでございましょう。」


 呼び出しがあった時、三郎の宿所である東寺でなく二条城であることに違和感を感じ、ある意味の覚悟を決めて来ていた。

「ところで、本日の呼び出しは別の事でございましょう?」

 回りくどいことはやめましょうと言う隼介に

「その方が世間から何と呼ばれておるか、存じておるか?」

 苦笑いしながら、

「悪逆非道、人でなし、武士の風上にも置けぬ者、まあ、そんなところでございましょう。」

 ちょっと前なら笑い合うことが出来た言葉であったのだが、

「お前もなかなかの言われようじゃな。」

 と言うと続く言葉もなく暫く沈黙が訪れた。

 ただただ、庭の水琴窟の音が響いていた。


「御屋形様、で私はどうすれば宜しゅうございますか?」

 うぅ~ん、「すまん!隼介!」そう言うと三郎は隼介に頭を下げ、「暫く越後で大人しくしていてくれぬか?」

 わざとらしく戯けて言う三郎に

「謹慎でよろしいのでございますか?」

「よい、よいのじゃ!暫く待っておってくれ、また必ず呼び戻す!」

 無理であろうな、深刻なことになっているようだ。

「かしこまりました。早速越後へ発ちます。」

 以後、一言の言葉も発せず一瞬の見つめ合い、目で語り合った二人の会談は終わった。


 三郎が立ち上がった後、小姓頭を勤める真田源次郎が寄ってきて、「御屋形様の苦悩見るに堪えませんでした。あちこちから大和守様の讒言が入ってきました。これ以上は大和守様のためにならぬ。とのご決断でございました。」

 黙って聞いていた隼介は、

「恩を返しきれておらんのが心残りじゃ。」


 隼介はそのまま宿舎に寄らず京を離れた。

 一行は小者一人、馬丁一人の3人である。隼介のみ馬である。

 その晩は大津に宿を取った。

 皆が寝静まった頃、目が冴えて過去のことを思い起こしてなかなか寝付けなかった。

 明日も早い、と無理に眠ろうとしていると

 足下に気配がした。

 抱えて寝ていた脇差の鯉口を切った。


「隼介殿、段蔵でござる。」

 その声で脇差を鞘に納めた。

 上半身を起こすと、すっと真横に来て、

「まず、状況を話しましょう。」


 段蔵が言うには、

 三郎様が宮中で、「なかなか上手に丹波を手に入れられましたな。」と言われたのが始まりでった。

 不思議に思われた三郎様からの指示で丹波を調べた。


 八上城を継いだ波多野定吉は、誰から聞いたか父秀治の死にお主が関わっている、いや主導したと思い込んでいた。

 安土に爆薬が仕掛けられていることを知りながら父等を安土に行かせた。

 そもそも織田があれほどの火薬を持っていたことも怪しい、お主が織田に提供したのではないか?とまで疑っていた。いや確信していた。証拠があるとまで言っている。

 城内では祈祷師を集め主を調伏していた。

という。


 ここまでなら三郎様も目を瞑っておられたのだが、さらに羽柴秀吉の家臣前野長康と連絡を取り、そなたを暗殺しようとしている。

 どれも証拠を掴んでいるが、既に刺客が多数放たれているし、今、波多野攻めをすれば丹波中が敵に回るであろう。

 家中でも斉藤様を筆頭にお主は恨まれておる。

 こちらからも苦情が上がってきている。


 三郎様は何とか対処し終わるまで畿内からお主を逃がそうとしている。

 行く先だが最も安全な場所は能登に頂いた我が領地であろうと思う。


「越後には帰れぬか?」

「帰らぬ方が良い。奥方や生まれたばかりの子に会いたかろうが、暫し辛抱したほうが良い。実は先日直江屋敷は火事を出した。失火ということになっておるが明らかに放火だ。心配せずとも怪我人はおらん。奥方は御館に避難されておる。」

「その話、どれほど前の事だ?」

「5日ほどかな。奥方はお主の事を気遣って知らせておらんのだろう?それほど越後でも緊張があったのよ。」

 何も知らんは己ばかりか・・

 船、すまん・・


「で、三郎様はどうせよと?」

 段蔵は、三郎の策を話すと何時の間にか部屋から居なくなっていた。

 隼介は夜が明けるまで考え続けていた。

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