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99 織田、将来を議する。

 小牧山城の山口十六郎は、武田軍を押し返し、尾張の防衛に成功した。「我が力、未だ衰えず!」と自画自賛していた。

 武田軍は各々の城に留守部隊を残し帰国した。おそらく休む間もなく遠江に出陣することになろう。

「徳川殿には少しは頑張って貰えるとやりやすくなるんだがな。」


 徳川との戦いで武田が消耗すれば、上杉陣営の脇腹に槍を刺す事が出来るだろう、楽しみだ・・

 詔勅による停戦で織田ー上杉は表だって戦うことはできないが、徳川ー武田はその限りではない。

「武田は戦続き、何処まで持つやら。それともまた上杉を頼るのか、それは矜持が許すまい。」

 十六郎は冷静に情勢の分析をしていた。

 惜しかったな、もう少し時間があれば岐阜城を取り戻し、大垣城も渡さずに済んだのに。

 と思い、何とか上杉を・・。と暗い表情で床の間に掛かった掛け軸を見つめていた。その掛け軸には『臥薪嘗胆』と書かれていた。


 翌日、十六郎は 清須城に向かっていた。

 中将信忠から意見を聞きたいと呼び出しが掛かった。

 清須城本丸の大広間には織田の主だった武将が集まっていた。

 上杉軍との休戦がなった今、前線には最低限の戦力を配置するのみであった。

 上座に座った信長は横に座った信忠に、

「中将殿、良く守ってくれた。皆もご苦労だった。この度の戦、上杉にしてやられた。全て儂の責任である。」

 この言葉に皆動揺した。「信長様が・・」「まさかご自分の非をお認めになるか?」どよめきが広間を占拠した。

 信長はさっと手を挙げると、

「儂は責任を取って隠居し、中将殿に織田家の舵取りをお任せする。ついては1人紹介しておく。」

 と一番後ろでで畏まる十六郎を指し、

「知恵を授けてくれるであろう山口十六郎である。見知り置くように。」

 そう言うと立ち上がり皆が平伏する中を広間から退いた。


 信長が去ったあとの静粛を信忠が破った。

「我らの進む道を決めねばならん。皆、遠慮はいらん!思っている事言え!」

 信忠は信長を反面教師にしていた。誰が入れ知恵をしたのか分からないが。

 誰かが戸惑いとともに、

「中将様、いきなり言われましても難しゅうございます。」

 信長そっくりの声で「であるか。」と答え、「では、1刻後ここで皆の意見を聞くことにする。ひとまず解散じゃ。」


 信忠は広間を出ると十六郎を連れて信長の居間に向った。

 そこには信長のほか森蘭丸がいた。

「和尚、どう思うな?」

 入口側に座っていた十六郎は平伏すると、

「戦い続ければ情勢をひっくり返す事が出来ると思います。このまま、上杉の下に付けばやがて・・中将様のお子様の代あるいはお孫様の代には潰されて織田の家名は残らぬと考えております。」

 ほう、ここまで押し込まれて未だひっくり返す事が出来ると思っているのか?

「ほう、申して見よ。」


 十六郎は静かにそして熱を込めて話し始めた。

「上杉軍は強く、国は繁栄し一見弱点は無いようにあります。が、上杉にはなくてもその同盟者の武田はいかがでしょうか?」

「最近の戦はほとんど上杉の銭に頼って戦をしております。上杉からの銭も無限では無く、領内からの年貢も思うようにあがらないようで、領民の慰撫も出来なくなりつつあります。何処まで上杉に頼る事が出来るかでございますが、何よりも武田殿の矜持が許さないものと思われ自滅の道を進んでいるように見えます。」

「徳川殿を前面に立て、武田を刺激し続ければ武田を倒す機会が訪れましょう。そうなれば、上杉の心臓である越後に匕首を突き付けたも同然でございます。」

 信忠は尻を浮かすほどのめり込み、

「そうなるのにどれほどかかる?」

「恐らく3年。」


 横で聞いていた信長が、

「和尚、あまり煽り立てるな。本気にする。」

 はははっ、「非道い言いようですな、某は本気ですぞ。」

「そのためには、徳川を思い通りに動かすこと。上杉から武田への援助を無くすこと。何より我らが上杉と争わぬことと言った難しい問題がついてこよう。」

「流石でございますな。そのためには牙を抜かれた振りをし、国力を上げるのでございます。」

 尻を着いた信忠は、

「出来るのか?」

「出来る、出来ないではございません。やるのです!」

 信忠の横で信長が笑っている。


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