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98 三郎、上洛す

 三郎は坂本城で勅使を迎えた。

 そして詔勅による織田家との停戦を受け入れた。

 その後、ずっと待たせていた羽柴秀吉を広間に呼んだ。

「筑前守、運がいいな。武将には何より大切な資質よな。」

 苦笑いしながら秀吉を見ると

「弟御に感謝じゃな。」

 秀吉に感じるのは、空虚な明るさで進む方向を間違えると暴君になるのではないかと言う気持ち悪さであった。抱える気持ちはさらさらなかったのだが一方で弟秀長は良いと思っていたし、その行動も好きであった。

「筑前守、一つ聞いておこうか?何故、信長公を裏切った?」

一瞬で緊張感が部屋中を支配した。間違えられないと思うと秀吉は頭をフル回転させた。

「信長様は、冷たいお方です。失敗をお許しになりません。私も上杉様を相手に失敗を繰り返してしまいました。最早限界でございました。」

冷たい視線が秀吉を突き刺すようである。

「儂も似たような者かも知れんぞ!」

三郎に取り入るように卑屈な眼を向けて、

「これまでの上杉様の為されようをみるとそうとは思えません。」

「えらく評価されたもんだな。」

「小一郎に免じて山崎城を任せよう。有岡城を先ず落とせ。守備は薄いようだぞ。その後播磨方面をどうするか考えよう。弟御を大切にな。」


 黒田官兵衛のことを考えるといい方面を任せて貰えた。上杉からもいつかは独立するのだ・・ふと我に返ると目の前に三郎が中腰で自分を見つめていた、冷たい目だ、

「筑前守、何を考えている?お主は日向守と同じに扱われるとでも思っておったか?それとも信長公を害そうとしたことを誉められるとでも思ったか?いや違うな、これで上杉を足場に出来ると思った顔だな!」

 脇の下を冷や汗が流れる。見抜かれている・・

「とんでもございません!誠心誠意勤めます!」

 笑いながら上座に戻ると「やるだけやってみよ。連絡はたやすな、良いな!」

 と言うと広間を出ていった。


 秀吉は腰が上がらす、その場に座り込んだまま「恐ろしい・・」


 黒田官兵衛は別の部屋で待たされていた。

 庭に面した8畳ほどの板の間である。庭が見えるようにか、襖は開け放たれている。

 庭側の廊下に若者が座り込み、「お屋形様より、官兵衛殿を監視するように申しつかりました。」

 監視?つい笑いが出た。

「儂を監視して何とする。」

 真剣な眼で

「官兵衛殿は極悪非道な人で自分の主人をも誑かし反乱に導いた。類い稀な頭脳と行動力を持った許しがたき漢と聞いております。」

 何だそれは?

「褒めて居るのか?貶しているのか?さっぱり分からんな。」

 その若者は、淡々と、

「御屋形様にしては最上級の褒め言葉でしょう。」

 褒め言葉?

「ところで筑前守様はどうしている?」

「既に発たれました。」

 発たれた?何処に?もしやあの世にか?

 一瞬顔が強ばるのを若者が、ニヤニヤしながら、

「ご心配なく。山城国山崎城を任せられましたのでそちらに向かわれました。」

「では、儂もそちらに向かおう。」

「官兵衛殿が向かわれるのは京です。お屋形様と一緒でございます。」

 お屋形様と一緒・・

 頭が混乱した、筑前守様は許されたようだが、儂が責任を取らされるのか?

 若者は相変わらずニヤニヤしながら、

「官兵衛殿はお屋形様の幕僚として帷幕のうちにいて欲しいとのことです。」

 幕僚として・・戸惑いが、顔に出たか?

「そろそろ出立の刻限でございます。御家来衆は既にお待ちです。」

 と言うと立ち上がり、「参りましょう。」と誘った。

 よく呑み込めぬまま、立ち上がると

「その方、名は?」

「真田源次郎信繁と申します。」


 三郎は京での本陣を東寺に定めた。

 信長が、上洛して以来、京の街は復興が進み安心して暮らせる街になっていた。

「信長のおかげか・・」

 京の街を行軍しながら、馬上から町衆の不安と期待が混ざった眼差しをを受け、時たま掛け声を掛けられながら、

 信長は統治するということをよく分かっている。

 庶民の暮らしがたつようにして安心を与えることが最も効果的だと言うことが。その辺りは隼介も同じだよな・・


 東寺に入ると門前には既に面会待ちの行列が出来ていた。

 うんざりした気持ちでその行列を見ながら、隼介が入れば代わって応対させるのに・・うんざりだな。

 その夜、やっと居間に入り遅い夕餉を摂りながら、黒田官兵衛を呼んだ。

「やぁ、やって来たな極悪の軍師殿。」

 襖の前で大人しく平伏する官兵衛は何を言われるのか気が気ではなかった。

「頼みがある。大坂の本願寺を退けよ!」

 ??何を言われたのか??である。

「お屋形様、それでは分かりますまい。」

 横から小姓の真田源次郎が笑いながら言っている。

 ムッとした内大臣は、

「ではお前が説明しろ!」と言うと湯漬を啜り始めた。

 源次郎は仕方なく説明した。

「御屋形様が仰っしゃりたいのは、大坂の地を上杉の本拠地としたい。ついては、本願寺が邪魔だから他に移転させる方法を考えろ。」ってことなんです。

 また、厄介な・・

 三郎が突然、横から口を挟み、

「大坂の地が持つ宝のような可能性が分かるか?」

「確かに大坂の地は穏やかな湊に豊穣な土地を背後に持ち街道にも近いですから、日の本一の街になる可能性がございます。本願寺がその事を理解しているとは思えませんが。」

「その通り、1百年の計を建てておる。日ノ本を一つにし、海を越えていく国にするために必要なことなのだ。」

 大きい・・途方もないな。

「官兵衛、そなたの悪知恵、天下のために使え!」

 思わず平伏してしまったが、何処か気持ちの良い風が吹き抜けていった。

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