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無礼のお詫びにお茶でもと、
ムリアーノさんをギルドの側にあるカフェにお誘いしました。
"スイートカフェバー"という、おしゃれなオープンカフェ。
そういえば、ヴェルクリの街でも似たようなお店を見たことあるような。
もしかして、チェーン店かも。
そこでお茶しながらのムリアーノさんの自己紹介は、
かなり波瀾万丈な内容でした。
ムリアーノさんは、召喚者。
戦争当時のエルサニア王国で勇者候補として召喚。
すぐに、固有スキルがイマイチという理由で勇者候補から脱落。
それからは"低職処分"という制度でエルサニアを離れての旅暮らし。
流れ着いたここオリベラで、街の懐の深さに定住を決意。
でも、それまでの旅で痛感したのは、冒険者として戦闘方面での力不足。
そして選んだお仕事が、冒険者サポーター。
「冒険者サポーターとは、知識や経験でのアドバイスによる補佐的役割りで冒険者の方々の安全で快適な冒険活動を後押しする職業です」
一緒にダンジョンに潜ったりとかも?
「もちろんご一緒しますよ」
「ただ、事前にお互いの方針をしっかりと確認し、合意の無いままでの同行は絶対にしません」
「雇用報酬の方は当分割りや事前の前金制など、要相談となっております」
でも冒険者ってピンキリですし、
ムリアーノさんのような女性の単独活動は危なくないですか。
「ケースバイケース、です」
「そもそもダンジョン内での諸々は、サポーターといえども自己責任ですから」
「もっとも、もしサポーターをぞんざいに扱うパーティーがいたら、この街のみんなが黙ってないでしょうね」
なるほど、それがオリベラ冒険者の心意気。
ところで、差し支えなければムリアーノさんのスキルを教えてください。
「……『新妻の鑑』、です」
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『新妻の鑑』:生活スキルの能力向上と、魅力大幅アップ
ある意味、とても有益な能力だと思います。
冗談抜きで、欲しがる娘さんも多いのではないかと。
「以前は、殿方からのアプローチの多さに悩みました」
「私の、ではなく、スキルが付与した魅力のせいなのかなって」
そりゃあもちろん、ムリアーノさんご自身の魅力ですって。
ほら、食いしんぼ妖精チミコさんが美味しそうなスイーツに目もくれずに、
お胸で幸せそうにうっとり笑顔。
「これだと、どちらの魅力なのか分からないのでは……」
つまり、全部ひっくるめてムリアーノさんの魅力ってことです。
「シジマさんって、いつもこうなのですか、奥さま」
「いつもなら、既婚者さんに夢中になったりしないのですが……」
……おっと。
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「御邦 ムリアーノ 瑪杜世(オホウ ムリアーノ メトセ)です」
「夫は、所属パーティーでダンジョン長期探索中です」
……大変申し訳ございません。
人妻さんと気付けなかったとは、このヤツタカ シジマ、一生の不覚。
お詫びに是非、夕食をご馳走させてください。
「シジマさんって、いつもこうなのですか?」
「いつもなら、よそ様の奥様を強引に誘ったりしないのですが……」
「先日の一件以降、ジゴロとしてもリミッター解除してしまったのかも」
ちょっと、違いますってば。
オリベラダンジョンについての詳しいお話しを、
もっとじっくり聞きたいなってだけですから。
「これまでダンジョンについての質問はひと言も……」
末永く、よろしくお願いしますね、奥さま。