ウルミVS日本刀
「相手の動きと同時に自分の動きが決まるとして、手数が増えたらどうでしょうか」そう言うとまたトキネはサタジットとの距離を詰めた。今度は直線的な動きだけでは無く左右方向への移動も加えて、左右の掌底で、次々と突きを繰り返した。サタジットは今度は両腕をクロスさせるのではなく、両の手の平を握り、肘から先端を一つの塊のように揃えて、それを左右に振ってトキネの突きを次々と交わしていく。トキネの攻撃スピードが上がってくると、サタジットの手のひらは握り合ったまま左右の肘は横に開いてそれに対応する。トキネの攻撃はただの一撃もサタジットに届くことは無かった。一通りの連続攻撃を終えてトキネは後ろに下がった。
「これは象の構えと呼んでいます。両腕を使うので強い流れを作れますし、中央から腕を四方八方に動かすことで敵の攻撃を防げます」
「確かに今のを受けきるのは凄いです。しかし一連の動きには隙も大きい。鍛え上げているあなたにならともかく、それを実戦で利用するのは一般の人には難しいんじゃないでしょうか?日本の武道は才能に恵まれていなくても、誰もが修行することによって、その成果を享受できるようになっています。……どうか見てください。古来武術から進化した日本の武道を…」そう言ってトキネはまた攻撃を再開する。
その攻撃は先ほどと同じくサタジットにはかわされていくが、そこで先ほどとは大きく違う動きが入る。トキネは後ろに大きく右足を蹴り上げ、そのまま一回転してかかとをサタジットの頭上に到達するように蹴りを入れる。テコンドーで言えばかかと落としの丁度逆である。サタジットはその動きを直前で感じ取り、かろうじて腕で受けた。
「やはり自分で予想できる範囲から超えた動きには、その量子もつれとやらの理屈は適用できないようですね」トキネはそう言って、そこからトリッキーな攻撃態勢をとった。それは修行を重ねたものだけに出来る特殊な動きだ。一般常識とされる打突とは全く違っていて、自由に動かした体から自由な打突が相手に加えられていく。想定した動きには全て対応どころか瞬時に受け、又はカウンターの動作が発動するサタジットであったが、全く想定外の動きには対応するのがやっとである。しかし彼が怯んでいるかと言えば、口には笑みが漏れている。
「こんな事をされたら、ハオランは瞬殺されるでしょうね」そう言いながらサタジットはトキネとは距離をとる様に後退して仁王立ちした。
「カラリパヤットは確かに体術としては実践的ではない。あくまで体の動きと気の流れを感じ取る訓練用の体操みたいなものです。戦争の時に素手で戦いに挑む馬鹿はいませんよね。古来から体を鍛えたうえで武器を使って戦うのが本当です」そう言ってサタジットは自分の右拳を見つめる。すると光の粒が彼の右拳に集まりだした。そうしてその光の塊は拳を起点として長く伸びていく。光が納まった時に彼の右腕には鞭のような武具が握られていた。
「これはウルミと呼ばれるインドの長剣です」そのサタジットが剣と言ったものは、柄の部分から出る刃の部分は4本に分かれ、刀身は鞭のように曲線を描いて丸まった形をしている。
「あなたも本来は刀を使って戦うのでしょう?自分の使い慣れた刀を握っているところをイメージしてください。この空間ではそれは実体化されます」サタジットにそう言われてトキネも自分の右腕を見る。そうして彼同様に刀をイメージするとその手には一振りの刀が姿を現した。
「一番使い慣れている刀となるとこれになりますかね」
「その刀身は村田刀ですね。いささか情緒には欠けますがいいでしょう」
村田刀とは明治の頃に開発された実用軍刀である。職人が打ったというよりは工業製品に近い。
「もしここで本当の日本刀を使ってしまうと、武器の差が出過ぎてしまいます。今でも日本刀は私の中では世界最高の武器です。明治の初期の頃にはサーベルを真似た軍刀が多かったですが、あんなものはお飾りです。刀は両腕で握ってこそです」
そう言ってトキネは刀を晴眼に構えた。晴眼の構えとは現代剣道でも基本とされる中段の構えで、剣先は相手の右目と左目の丁度中間を指す構えだ。トキネは深く息を吸うと、ゆっくりと長く吐き出した。




