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現れなかった田村さん

 当番の日、自分は図書館に少し早めについたので先にカウンター席に座っていた。すると、田村さんではなく他の図書委員の女子が現れた。田村さんと同じく一年生の女の子だ。

「今日は田村さんは来れないので、代わりをお願いされました」と、彼女は言った。


 もしかしたら田村さんには避けられているのかもしれないという、一抹の不安が頭の中をよぎった。あの時頭に巻いた手ぬぐいを差し出したのが常識外れだったんだろうか?そういえば『もてないでしょう?』と言われたことも思い出した。

 いやそんなことくらいで休むわけはないだろう。風邪でもひいたのかもしれない。そう言えば様子がおかしいという広崎さんの話もあった。


 広崎さんに聞いてみようとスマホを取り出してSNSで彼女にメッセージを送ろうとしたところで、逆に広崎さんからメッセージが届いた。


『祥子が誰かに脅されているかもしれないんですけど、先輩何か聞いてませんか?』いきなりのその文面に驚いた。もちろん自分には分かるわけもない。


『ちょっと分からないな。彼女がそう言ったの?』そう自分は返信した。

『私にも危害が加わるかも知れないので気をつけろってメッセージが来ました。今日話をつけてくるとも書いてました』広崎さんの返信を読んでいて、自分の中で血流が増幅し、胸の鼓動が高まっていくのが分かった。


『それでなんて返したの?』メッセンジャーで自分は聞き返す。

『電話にも出ないし、さっきからメッセージにも既読が付かないんです。どうしよう?警察に行った方がいいんでしょうか?』広崎さんの混乱ぶりが文面から伝わってくる。しかし仲のいい彼女が何も分からないのだから、警察に話したところで手がかりもなく、解決につながるとは思えない。


 自分が彼女について知っていることと言えば、菅野に住んでいて特待生で、八幡のレストランでバイトをしていて実は昔からの知り合いで…共通の知人は広崎さんと…そう思ったところで一人の女性がカウンターの前に現れた。草壁さんだった。


「え、どうしてここに?」突然の事に驚いて聞く自分に草壁さんは

「文部科学大臣秘書ですからね。大概の学校にはフリーパスで入れます」そう言ってウィンクをすると、となりにいた一年生女子に


「ちょっと茂木君は借りていくので、図書委員の方はよろしく」そう言ってから自分の方を見る。自分は頷いた後、数秒で荷物をカバンに詰めてカウンターの外に出た。


 草壁さんは自分の前を来客駐車場の方へと走っていく。夏休みなので駐車場には車は数台しか停まっていない。見慣れない赤いジムニーに彼女は乗り込んだ。自分は草壁さんが指示するのを待つことなく助手席へと座った。


「移動しながら話します」そう言いながら彼女はエンジンのスタートボタンを押した。校門を出て方角は南の方へ車は進んでいく。


「田村さんはネットサーフィンが趣味なんですが、ある時押し込み強盗のメンバー募集を闇サイトでみつけちゃいましてね。すぐに警察に通報したんだけど、なぜか強盗団に身元がばれて逆に脅迫されちゃったみたいなんです」草壁さんは車を運転しながら説明してくれた。


「どうして草壁さんがそんな事ご存知なんですか?」自分がそう聞くと

「ある筋から情報が入ったんです。とにかく今からそいつらのアジトに向かいます。話し合いとか言って彼女も今呼び出されているらしいですから」彼女はそう答えた。


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