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73.悪役姫は、報告する。

 瘴気浄化(聖女のお仕事)終了後、すっかり離宮に遊びに来るのが当たり前になっているヒナに温泉宿から譲ってもらった玉露と羊羹を出したアリアは、


「そんなわけで、ロイ様とお付き合いする事になりました……って、ヒナは何をしているの?」


「いや、美女のはにかみ笑いプライスレス。今日もアリア様が尊い」


 だいぶ端折って結論だけ話したアリアに、天井か壁あたりでじっくり鑑賞したかったとヒナがいうので、


「……ここから先は有料です」


 アリアは苦笑してそう答えた。


「くっ、未成年だし。まだお金ないからゲームだって無課金勢なのに」


 将来は公務員になって安定課金したいなとヒナは笑う。


「ヒナは私に課金するよりゼノ様に課金しなきゃでしょ?」


「そう、それ。でもアンジェリカお姉様も好き」


「また新しいキャラ出てきた」


 覚えきれないんだけどと苦笑するアリアに、アンジェリカお姉様は同担歓迎、むしろガンガン推して欲しいとスマホで水色の髪に同色の目を持つロングソードを構えたキレイめなキャラクターを見せる。


「ちょっとアリア様に似てません? 剣姫なんですよー」


「私の荊姫はもっと大剣よ?」


 まぁ肩書き姫は一緒かなと共通点を無理矢理見つけてアリアはそう言って笑った。


「本当おめでとうございます。……けど、よかったんですか? 相手ロイ様ですけど」


 と言ったヒナをじっと見つめたアリアは、


「ヒナがロイ様の事どう思っているか、聞いてもいい?」


 物語を変えてしまった責任として、本来彼と結ばれるはずだった彼女に聞かなくてはならないとアリアは緊張した面持ちで尋ねる。


「んー私の知ってるロイ様はいい人だなーとは思います」


 お世話になってますし、とヒナは笑う。


「思っている事ぶっちゃけていいですか?」


「ええ、なんでも言って」


「アリア様が"時渡りの乙女"のラノベ大ファンだっていうから言えなかったんですけど、ぶっちゃけなしですよ! 婚約者奪うのでもアウトなのに、相手既婚者じゃん。ヒーロー設定どうなってんの!? 女子高生と泥沼不倫のあげく妻処刑って、異世界でもなしでしょ。何? 作者の倫理観とか道徳心とか死んでない? って思ってました」


 話は面白そうだけど、なしですねとヒナは作者をディスる。


「いや、まぁ設定は確かにそうかもだけど!! 展開は面白いから! 超感動作だから!! 作者様をディスらないでぇーー!!」


 ファンなの、他作も好きなのとアリアは必死で作者を擁護する。


「アリア様幸せそうなんで言うのどうかと思ってましたけど、1回目の人生で自分のことを断罪した相手とやり直すってアリア様的に有りなんです?」


 しかも結構ロイ様腹黒だし、妻にプレゼントと称して勝手にGPS仕込むような人ですよ? とアリアに大丈夫かと尋ねる。


「まぁ、1回目は確かに処刑されたけど、それは今世出会ったロイ様とは関係ないし。この世界では首刎ねたり、斬ったり、斬られたり、監視したりって割と普通にあることだから」


 その辺は別にと首を振るアリアに、


「おぅ、なんっていうか……アリア様の倫理観も大概ですよね」


 私やっぱり元の平和な世界に戻りたいですとヒロインは物語からの退場を希望する。


「まだ、ヒナを元の世界に戻す方法は分からないんだけど、ロイ様やアレクお兄様に調べてもらってるから」


 とアリアは現状をヒナに伝える。

 今後のヒナの処遇をどうするかと検討していたロイに、ヒナと共に彼女が帰りたがっていることを伝えた。

 国に聖女を留めたい貴族や聖職者たちと多少揉めたようだが、アリアとの離婚未遂騒動でロイから随分と報復を受けた彼らは最終的に『救国の聖女への褒賞』という名目で呑まざるを得なかった。

 アリアは黒い瞳をじっと見て、


「ヒナが帰れるように私も持ってるコネ最大限に使って、今色んなところに働きかけてるから、もう少し待っててね」


 絶対、見つけてみせるからとアリアは今世仲良くなった大好きな友人に笑いかける。


「……アリア様」

 

「ヒナ、私はヒナが大好きよ。だって、私あなたのファンなのだもの」


 淡いピンク色の瞳を瞬かせ、ふわりと柔らかく笑ってそう言ったアリアにヒナは抱きつき、


「やっぱりロイ様にはアリア様はもったいない気がしてきました」


 私ともいっぱい遊んでくださいね! と元気いっぱいそう言った。

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