62.悪役姫は、ヒロインと和解する。
アリアは2回目の人生を終了して、こちらに転生しているので、多少なりとヒナの生きている時代にズレはあるだろうと思っていた。
初めは歴史や大きな事件で照合しようとしたが、2人とも細かな点での正確性に自信がなかったので、自分達の覚えている話題を中心に、それぞれ出していった。
「タピオカはリピでしたね。でもカロリーエグくて」
「タピオカミルクティーは流行ってたけど、私は好みじゃなかったわ。あんまり食感が好きじゃなくて」
だが、意外にも時代的にはそこまで大きなズレはなく、ヒナの話すトピックにもアリアは覚えがあるものが多かった。
が、"時渡りの乙女"以外にも相違点はすぐに見つかった。
「……そんな事ってある!?」
「いやぁ、衝撃ですね」
2人して顔を見合わせ、お互いの常識のズレに愕然とする。
「国民の誰もが知っているといっても過言ではない、日曜の夕方にあるあのアニメを知らないなんて!!」
「私もびっくりです。あの有名なソシャゲが存在しないなんてっ!! アニメ化どころか映画化までされて、流行語大賞まで取ったのにっ」
若者を中心に社会現象を巻き起こしたのにとヒナは語る。
「あ、でもこの漫画は存在するのね。ちょっと安心」
「名作ですよね。このジレジレのすれ違い感がたまらない」
思いつくまま色々な話題を上げていって、最終的に辿り着いた2人の共通の話題は、アニメとゲームと漫画とネット小説だった。
アリアのいた世界にしか存在しないモノ、ヒナのいた世界にしか存在しないモノ、アリアとヒナの世界に共通して存在するモノ、間違い探しのような会話を通して見つかる相違点にアリアは目を丸くする。
「この差は一体なんなのかしら?」
「さぁ? でも私達はちょっとだけ違う世界に存在する同じ名前の国から、この世界にやって来たのかも……しれませんね」
それはつまり、パラレルワールドという奴なのかしら?
じゃあここにいるヒナと1回目の人生のアリアが出会ったヒナは違う?
うーんとアリアが首を傾げたところで、
「姫様! いつまでもお戻りにならないので心配しました」
とマリーが慌てた様子で私達の前に現れた。
「……彼女は」
一目でわかる、この世界の人ではないというヒナの姿に、マリーは何故一緒にいるのかと眉根を寄せる。
今日はこれ以上の話は難しいなとこっそりため息をついたアリアは、
「ヒナ、殿下はヒナに良くしてくださる?」
困っている事はないかと尋ねる。
「あ、ハイ。そこは……とても良くして頂いていて。ロイ様はこの世界が分からない私にとても優しくしてくれて、なるべくそばにいてくださいますし。住まわせていただいているところはすごく豪華な屋敷だし」
言葉を選ぶようにヒナはゆっくりと頷く。
そんなヒナを見ながら、アリアは思う。まぁ仮にパラレルワールドなのだとして、彼女は自分が知っているヒロインである事は間違いないし、時渡りの乙女はロイとの関係を順調に築いているようだ。
そこが変わらないなら、アリアにできる事も変わらない。
「……良かった」
アリアはヒナの黒い瞳を見ながらつぶやく。
悪役姫さえいなければ、彼らはこれから小説の通り恋に落ちて幸せになるんだと思う。
気をつけて帰ってね、とアリアはヒナに帰り道を教える。
帰り道を辿ろうとした背を見送っているとヒナがくるりと振り返り、名残惜しそうな黒い瞳と視線が絡む。
「あのっ! 厚かましいかもしれませんが、またお話しに来てもいいですか!?」
「えっ?」
「……ダメ、でしょうか?」
突然のヒロインからの申し出に戸惑い驚いたアリアに、ヒナはしゅんと目を伏せる。
誰がこの可愛らしい美少女の申し出を断れるだろうか、いや無理だ。
そう思ったアリアはくすっと笑って、
「いつでもいらっしゃいな。次はうちでお茶でも飲みましょう?」
美味しいお菓子を用意しておきますね、と言ったアリアにぱぁぁっと表情を明るくしたヒナは元気よく頷く。
そんなヒナを見て、
(ヤダ、ヒロインやっぱり超可愛い)
とアリアは推しであるヒロインにときめきつつ、次回の約束をして楽しそうに帰っていく背中を今度こそ見送った。
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