61.悪役姫は、ヒロインに打ち明ける。
ゆっくり道なりに歩いていった先にある東屋にヒナと向かい合って座ったアリアは、まるで小さく怯える小動物のようにちょこんと座る彼女を見て、もしかして彼女も何度も人生を繰り返していて、1回目の人生でアリアが冷たくあたったり嫌がらせをした記憶があるのではないか、と思う。
「ヒナっ、ごめんなさい!!」
「へっ?」
勢いよくなんなら土下座しそうな勢いで皇太子妃が頭を下げるものだから、ヒナは驚きと戸惑いの表情を浮かべ、大きな黒い瞳を更に大きく丸くしてアリアを見返す。
「私確かに悪役姫だし、1回目の人生の時は勘違いも甚だしく醜い嫉妬心で嫌がらせをしてしまったけれど! でも、もう改心してるからっ!!」
アリアはヒナを害するつもりは全くないのだと全力でアピールする。
「確かにまだ離婚できてないけど、もう離縁状も書いていて実質離婚したようなものだし、今世の私とロイ様は本当にただ国同士が決めただけの政略結婚で、恋愛感情もなければ一切やましいことのない清い関係で、なんならただの上司と部下だから!!」
ぽかーんとするヒナを置き去りに、アリアはロイとの関係と身の潔白を真摯に訴え、
「そんなわけだから、安心してロイ様と愛を育んで皇太子妃に収まって頂戴! ヒロインを邪魔する障害はもう何一つないから」
悪役姫は物語から退場するので、あとはどうぞご自由にと言い切って、アリアは申し訳なさそうに頭を下げる。
「許してなんて、そんな厚かましいこと言わないわ。でも私2回目の人生であなたの物語を読んで、すっかりヒナのファンになっちゃって。だから、あなたを害することだけはないし、困っている事があれば帝国から出て行くまでの僅かな時間にはなるけどなんでもするわ」
なんでも言って頂戴っと胸を張るアリアに、
「…………あのぉ、おっしゃっている意味が全く分からないんですけど」
そう言った困惑しきった黒い瞳を見て、あれ? これやらかしたかもしれないとアリアは時間差で気がついた。
マズイこれでは意味不明な発言をするただのヤバい奴になってしまうと思ったアリアは、咄嗟に木の棒を拾い地面に文字を書く。
「ヒナ、これ読める?」
アリアが綴ったのは、
『時渡りの乙女は異世界で愛しの彼と無双するようです』
このファンタジー小説のタイトル。
「!! 日本語っ!!」
そして綴った文字は2回目の人生を生きた世界での母国語だった。
「つまり、アリア様は人生3回目なんですね」
アリアの説明を一通り聞いたヒナはあっさり受け入れてそういった。
「別に様つけなくていいよ。3つしか違わないし。退場間近の悪役姫より、時渡りの乙女、救国の聖女様の方が重要度も役職も上だし」
そうなの、と頷くアリアは、なんならタメ口でいいんだけどと告げるが、他の人に聞かれるとマズイのでと固辞された。
「それにしても、よくこんな話受け入れたね」
「まぁ、私自身が異世界転移してますし」
家のドア開けたらいきなりですよ、とアリアが知っている小説のはじまりと同じ事を語る。
「でも、私の人生はこれが初回です。アリア様にいびられた記憶はないですね」
「転生やループはしてない、ってことね」
ふむ、と頷いたアリアはおかしそうに噴き出す。
「すごい会話じゃない? 現実の世界で転生だの異世界に転移だのって」
本当に不思議ねと笑うアリアに同意したヒナは、
「ちょうど、転生モノや転移モノの漫画や小説流行ってましたし」
まさか自分がこうなるとは思いませんでしたけど、と風になびく黒髪を耳にかけながらヒナは静かにつぶやいた。
そんな動作でさえ、絵になるくらい可愛い美少女。ロイと並んだら本当にお似合いだ、とアリアは心の底からそう思う。
「2回目の人生での私はただのしがないOLで、ファンタジー小説沢山読んだんだけど、本当に"時渡りの乙女"は一押しだったのよ。まぁ、3回目の人生で私がこの世界の悪役姫だったって思い出したんだけど」
かなりの話題作だったし、とアリアは異世界恋愛ファンタジーの中で1番好きだったのと改めてヒロインを見つめる。
そんなアリアの話を聞きながらヒナは、
「でも私、知らないんですよね。その話」
ぽつりとそう漏らす。
「あ、異世界モノの小説読まない人?」
コミカライズで書かれていたヒナの現世での回想シーンから、アリアはヒナは知的な文学少女だと思っていた。そんな彼女が読むものとはジャンル違いかしら? とアリアが考えていたところで。
「いや、むしろ大好物で廃人ですね。ネット小説は話題作なら大抵網羅してるし、書籍化前の奴もガンガン読むし。漫画好きなので、更新まで待てなくて原作ありは基本追っかけますし」
なんならゲームもアニメも大好きです! と言ったヒナは、
「だから、不思議なんですよねー。コミカライズまでされてて、大手小説投稿サイトのランキングに入るその話を見た事も聞いた事もないなんて」
と、不思議そうに首を傾げる。
「ねぇ、アリア様。ちょっとすり合わせしてみません? 私の来た世界とアリア様の知っている2回目の人生の世界について」
そうヒナに提案されたアリアは淡いピンク色の瞳を瞬かせ、しばし思案したあと提案を受け入れた。
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