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47.悪役姫は、歩み寄りの姿勢を示す。

 ロイから切り出されたその話にアリアは形のいい眉をさげ困った表情を浮かべる。

 アリアがどう転んでも全部を受け入れようと決め、ロイに今度は自分から会いに行くと宣言して以降、ロイの離宮への訪問はパタリと止まっていたのだが。


「で、アリア。一体いつになったらアリアから俺に会いに来てくれるんだ? あとチェックメイト」


 久しぶりに呼ばれた夜伽という名目のロイとのゲーム大会で、アリアはついにその件について切り出されてしまった。


「…………投了までが早すぎませんか、殿下」


 あんな話をした後での久しぶりのロイとの時間に若干緊張していたこともあり、ゲームに身が入ってなかった自覚はあるが、本日はロイが全然手加減してくれない。おかげで今日はアリアの全敗だった。


「上の空のアリアとやっても面白くない。それよりも、だ」


 ロイは向かい合っていた位置からアリアの隣に移動し、


「なんで呼び方"殿下"に戻ってるかな〜アリア?」


 詰め寄るようにそういった。


「殿下、絡み方が鬱陶しい」


 ある程度吹っ切れたアリアは、そんな事では動じずハイハイと流して駒を片付けはじめる。


「ところで、黒魔の方調査どうなってるんです?」


「今日のアリアは仕事をしに来たの?」


「夜伽の時間も仕事のうちですからね。ゲームも負け続けなので、仕事手伝います」


 どうせまた沢山持ち込んでるんでしょというアリアに、うーんと悩んだロイは、


「じゃあ、夜伽らしくイチャイチャする?」


 とアリアのシャンパンゴールドの髪を軽く引っ張ってクスッと笑う。


「はい? イチャ……えっ!?」


「今日の分は仕事全部終わらせてきたんだけど。今晩会えるの楽しみにしてたの、俺だけ?」


 首を傾げてそう尋ねてくるロイが纏う空気が色っぽく、伸ばされる長い指先がさらっとアリアの頬から首までを撫でる。


「えっと、あの……私……はっ」


 アリアは頬が熱くなるのを感じながら、言葉が紡げず、視線を落とす。

 不意にロイが寝ぼけていた時の事を思い出し、両手で口を覆う。

 そんなアリアの事をじっと見つめながら、


「もしくは俺の晩酌に付き合う」


 とロイは選択肢をひとつ増やす。


「晩酌で!!」


 間髪を入れずに元気良くそう言ったアリアにクスクス笑いながら、


「ハイハイ、じゃあ今日は2人で楽しくお酒でも飲もうか」


 そう言ってロイは晩酌の準備をはじめる。

 そんなロイを目で追いながら、完全に遊ばれているとアリアは膝を抱えた。


「ロイ様が女性だったら、絶世の悪女になれたんじゃないかと思うんです」


 ワインが名産の国の出身とは言え随分ペースが早いなとアリアを観察していたロイに、脈絡なくアリアがそう言った。


「アリアは悪女志望だったっけ?」


「いや、別に志望はしてないですけど」


 見た目は悪女っぽい自信がありますとドヤ顔で胸を張るアリアを見て、受け答えはしっかりしているけれど、これは相当酔っているなと判断したロイはアリアの前からさりげなくお酒を取り上げ、代わりに水の入ったグラスを置いた。


「で、何で俺が悪女なの?」


「所作が無駄に色っぽい。お祖母様みたいです」


 お祖母様、という単語にロイは意外そうな顔をする。アリアの母方の祖母はキルリアでは男狂いの悪女として有名で、彼女の容姿はその祖母に瓜二つなのだと聞いている。

 そんな悪名高い相手といくら血縁とはいえ親しく交流を持つだろうかと思うロイに、


「お祖母様はただハニートラップ仕掛けて情報抜いてただけですよ」


 とアリアはさらっと内情をバラす。お母様は、お祖母様のお仕事嫌厭してたみたいですけどと、懐かしそうに目を閉じてアリアは語る。


「私、6番目の子だし上の兄姉はみんな優秀なので、特に役割も求められてなくて。でも、見目がお祖母様に似てたからお母様がどう扱えばいいか困ったみたいで」


 幼少期、母との間に壁があったことをアリアは思い出す。


「お祖母様は私を後継者にしたかったようなんですが、スパイにするには私壊滅的に演技力がなかったみたいで」


 演技指導受けたんですけど、何一つ身に付かなかったとアリアはポツリとこぼす。


「ああ、うん。すごく分かる」


 アリアは見た目だけなら間違いなく派手目な顔立ちの美人だし、所作は王族らしく綺麗だが、色気は一切ないなとロイは頷く。


「6つの時、継承権の儀式で荊姫が鳴きました。それから私の魔力はずっと荊姫のモノなんです。魔剣に選ばれた私は娼館で手練手管を学ぶ代わりに騎士団に放り込まれました」


「王家の生まれでその2択ってすごいな」


 対外的には王宮で育った箱入り娘なんですけどねとアリアは楽しそうに幼少期を語る。

 騎士団に放り込まれ剣を学び祖母とは違う道を歩きはじめた時から母との関係も改善したから、きっと剣の道を志したのは正解なのだろうけれど。


「ロイ様を見てると、もし私にもう少し色気があったら、無駄に派手目な見た目も活用できたのになって思ったりします」


 悪役姫なのに悪女度でも皇太子に勝てないっと嘆くアリアを見ながら、ロイはクスクス笑う。


「何、アリアは俺に勝ちたいから悪女になりたいのか?」


「とりあえずなんでもいいから皇太子(ラスボス)を打ちのめしたい」


「俺はアリアの中でラスボスの位置付けなんだ」


 なんのラスボスだよと楽しそうに話を聞くロイは自分の分のグラスを空けて、


「そろそろお開きにしようか」


 とロイが遠ざけたはずのお酒のグラスを引き寄せようとしたアリアを止める。


「えーまだ飲みたいです」


「アリア、お前だいぶ酔ってるからな」


「酔ってない」


「酔ってる奴は大概そう言う」


 もうこれ以上はダメとアリアからお酒を取り上げて片付けるロイを見ながら、アリアはコテンとソファーに寝転ぶ。


「アリア、ベッドで寝ろよ。動けないならお姫様抱っこで運んでやろうか?」


 と冗談混じりでロイがそう言うと、アリアは若干焦点の合わない虚な視線をロイに寄越しながら、


「ん」


 と両手をロイの方に差し出した。

 アリアが本当にお姫様抱っこを所望するとは思わず一瞬面食らった顔で固まったロイは、


「ねだり方が子ども。本当に色気ないな」


 と笑ってアリアを抱き抱えた。

 普段なら絶対してこないくせに、ぎゅっと抱きつきロイの首に腕を回すアリアに、飲ませ過ぎたなとロイは苦笑する。


「いつ、なら」


 アリアをベッドに下ろそうとしたところで、アリアが小さくつぶやく。


「どうした?」


「いつなら……ロイ様の邪魔にならない?」


 アリアはコテンと身体をロイに預けたまま小さく尋ねる。


「邪魔したくなくて。そう考えたらいつ会いに行けばいいか分からなくて」


 行けなかったとそう話すアリアをベッドに下ろして、彼女と視線を合わせる。

 淡いピンク色の瞳には緊張と罪悪感が混ざっていた。

 ふっと優しく笑ったロイは彼女の髪を優しく撫でる。


「それが聞きたいけど聞けなくて、緊張して飲むペース早かったのか?」


 こくんと素直に頷くアリアに、ロイはなんとも言えない温かな感情を覚える。


「……ずっとそれを考えてたのか?」


 こくんと小さく頷くアリアを見て、彼女に触れたくなる。


「アリア、キスしていい?」


「ダメ」


「そこは即答なんだな」


 酔っていても確固たる意思で断るアリアに苦笑して、


「じゃあハグは?」


 と尋ねるとアリアは少し考えてどうぞと笑った。

 ロイは割れ物でも扱うように大事そうにアリアの事を抱きしめる。

 抱きしめ返してくるアリアの心音を聞きながら、そっと髪を撫でロイはアリアの髪にキスをした。


「アリアが早くても大丈夫なら朝一緒に食事しないか?」


「朝ごはん?」


 聞き返すアリアに、


「朝なら無理せず絶対時間空けられるから」


 とロイは話す。


「じゃあ月1で」


「少ない。毎日とは言わんが、もう少し歩み寄りの姿勢が欲しい」


「じゃあ月2」


「……アリアせめて週3〜4回とか」


「週1回。それ以上は譲歩できません。あなたすぐ無理するし、平気なフリして嘘つくし」


 大丈夫そうなら頻度考えますと言うアリアに分かったとロイは了承した。

 気が抜けたのか、ロイの背中に回していたアリアの腕から力が抜ける。

 ロイは名残惜しそうにアリアを放しベッドに寝かせてやる。

 トロンとした眠そうな目でロイの琥珀色の瞳を見たアリアは、


「聞けて良かった。……会えるの、楽しみ」


 ふふっと小さく笑ってゆっくり目を閉じるとそのまま規則正しい寝息を立てはじめる。

 そんなアリアの寝顔を見つめて、


「やばいな、アリアが普通に可愛く見える。俺末期かもしんない」


 そうつぶやいたロイは、


「俺も楽しみにしてる。おやすみ、アリア」


 寝ているアリアの額に口付けを落として優しく笑った。

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